薬のアレコレ その2 アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬
ARBはアンジオテンシンIIの働きを抑え、血管を拡張する薬
日本で2番目に処方数が多い降圧薬です
すべて1日1回タイプ
日本では7種類のARBが使われており、それぞれ特徴がある
自覚できる副作用が出ることは少ないが、腎機能の悪い人は注意
妊婦さんが継続して内服することは禁止(禁忌)
妊娠希望女性でも必要なら内服可能だが、妊娠したらすぐに中止する
ARBは 第一選択薬の1つ
アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬(ARB)は、最初に選ばれる降圧薬の中で、2番目に処方数の多い薬です(1)。第一選択薬とは、高血圧の治療を初めて導入する際には、このタイプの薬から始めましょうと推奨されているお薬のことです。高血圧治療ガイドライン2019によると、このCCBに加え、別コラムで説明するARB、ACE阻害剤、利尿剤の4種類が第一選択薬とされています。(2)
ARBを積極的に第一選択薬とするケース
各薬剤には、こういうときには、この薬剤を選びましょうという推奨があります。ARBを積極的に選んだ方が良いのは以下のようなケースです。
1)心臓が大きくなっている(左室肥大)の人
2)ある種の心不全
3)心筋梗塞を起こしてしまった後
4)蛋白尿またはアルブミン尿のある慢性腎臓病の人
ARBには臓器保護作用がある
ARBには、臓器を守る作用があるとされているため、前述したとおり、心臓や腎臓が傷んでいると考えられる患者さんに積極的に用いられます。また、糖尿病の発症を予防する効果も期待されています。ただし、直接的な臓器保護作用のほとんどは、血圧低下量に由来することに注意が必要です。単純化して説明しますと、ARBと別の種類の薬を飲み比べて、両方で同じように血圧が130 mmHgまで低下したとすれば、ARB特有の作用がある分、他の薬よりも心臓や腎臓の分野でよりARBが優れる可能性があるということです。もしもARBを飲んで血圧が130 mmHg、他の薬で血圧が120 mmHgとなった場合、他の薬の方がより優れると考えられます。もちろん、他の要素も考慮して患者さんそれぞれに判断してお薬を決めることとなります。
ARBの作用機序
ARBはアンジオテンシンIIタイプ1受容体に結合することで、その作用を遮断し降圧効果を発揮します。
血圧は動脈の内部にかかる圧力です。動脈は何層かに分かれていますが、そのうち中膜に血管平滑筋と呼ばれる層があり、収縮と弛緩を繰り返すことで血圧の調節を担っています。アンジオテンシンIIタイプ1受容体はこの血管平滑筋細胞に存在しており、細胞内のカルシウム濃度を調節することで血管の収縮度を変えています。すなわち、アンジオテンシンIIがこの受容体に結合すると、血管は収縮します。この受容体の入り口をARB遮断することで、アンジオテンシンIIが結合できなくなり、血圧が低下します。
アンジオテンシンIIタイプ1受容体は血管平滑筋以外にもある
アンジオテンシンIIタイプ1受容体は体のあちこちにあるため、様々な臓器でその効果を発揮します。その代表が腎臓です。腎臓にアンジオテンシンIIが働くと、腎臓の細胞にダメージが生じやすくなることが知られています。心臓も同様です。そのため、ARBは腎臓や心臓を保護する作用があると考えられているのです。
ARBの種類
ARBには7種類あり、それぞれが現役で処方されています。CCBに比べて数が多いので、かいつまんで説明しますね。
一般名 | 先発商品名 | 特徴 |
---|---|---|
ロサルタン | ニューロタン | 世界初のARB、腎保護作用が証明されている、尿酸が低下する |
カンデサルタン | ブロプレス | 日本製、糖尿病の新規発症を予防する可能性が確認されている |
バルサルタン | ディオバン | いわゆるバルサルタン事件で悪目立ちしたが、薬そのものに問題はない |
テルミサルタン | ミカルディス | 日本では唯一の、CCBと利尿剤を加えた3種配合剤がある |
オルメサルタン | オルメテック | 早く強い降圧効果が得られる、アルブミン尿の新規発生を抑制 |
イルベサルタン | アバプロ | 降圧効果は比較的マイルド、腎保護効果や尿酸低下などロサルタンに似た作用も |
アジルサルタン | アジルバ | 特許が切れていない最新のARB、最も降圧効果に優れる |
ロサルタン
25㎎から100㎎までの幅があります。最大の降圧効果に至るまで、数か月から半年くらいかかるのではと言われています。また降圧量も10 mmHg程度と全体からすれば弱い部類に入ります。しかし、大規模臨床試験によって、腎機能を保護するという証拠を始めて示した薬剤です。また、別な分子にも作用することによって、尿への尿酸排泄を促すため、血中の尿酸が低下します。高血圧に加え、痛風があるような患者さんに向くでしょう。
カンデサルタン
4㎎から16㎎の幅で使用されます。日本で開発された初めてのMade in Japan ARBです。CASE-Jという試験の結果、他のARBと比較して遜色のない効果を発揮したうえ、糖尿病の新規発症を抑制するというおまけが期待できることが示されました。心不全の治療にも用いられます。
バルサルタン
20㎎から160㎎の幅で使用されます。降圧の機序や効き目、安全性は他のお薬と比較して同等です。しかし、日本国内で行われた臨床試験で、データの改ざんによって結果を良く見せかけるという不正が行われてしまいました。いわゆるディオバン事件です。この後、高血圧や製薬企業をみる世間の目が厳しくなりました。仕方のないことなのですが、高血圧をきちんと治療しなければならないことは事実ですし、お薬自体にも罪はありません…。罪は人なりですかね。
テルミサルタン
ドイツで開発されたお薬です。40㎎または80㎎で用います。一時は、メタボサルタンと呼ばれていました。理由として、いわゆるメタボリックシンドロームの方々で、血糖やコレステロール低下作用があると考えられていたことが挙げられます。配合剤の種類が多く、ARB+利尿薬、ARB+CCB、そしてARB+CCB+利尿薬(商品名:ミカトリオ)の3種配合剤があるのはテルミサルタンだけです。より強い効果を少ない錠数で希望される方には最適です。
オルメサルタン
日本で開発された2番目のお薬です。アジルサルタンが登場するまでは、最強の降圧効果で処方数を伸ばしました。降圧こそが心血管病を予防に資する最大の要素ですので、他のARBと比べて使うメリットが大きいといえます。また、糖尿病患者さんでアルブミン尿が出るまでの期間を延長させる効果がを示した研究結果があるため臓器保護作用が期待できます。
イルベサルタン
日本では6番目と遅い発売でしたが、世界ではもっと早く使えていたために、臨床データは多い薬剤です。いくつかの点でロサルタンに近い薬剤です。第一に、イルベサルタンでも腎機能低下の抑制効果が示されています。第二に、尿酸低下作用も認められます。第三に、最大降圧までに要する日数こそ1週間程度短いものの、最大降圧量は8 mmHgとあまり多くないことが挙げられます(3)。これは弱点ではなく、急激な降圧をきたしてほしくない高齢者や、あともう少しだけ下げたいゴール一歩手前の患者さんに追加する薬剤として最良と考えています。降圧効果が弱い分、アムロジピン5㎎または10㎎との配合剤が用意されており、アムロジピン10㎎との配合剤はイルベサタンとの組み合わせしかなく、おそらく最も強力な配合剤と言えます。
アジルサルタン
最後に発売されたARBで、特許が切れていないため、ジェネリック医薬品がありません。最速最大の降圧効果を示すため、もともと血圧が相当に高めの患者さんを治療する際には良い選択肢です。豆知識としては、このARBを単独で用いるより、配合剤の薬価の方が安いという逆転現象があります。もしも、アジルサルタンとアムロジピンを別々に処方されている患者さんがいれば、配合剤に変えてもらうことによって医療費を下げることが出来ますよ。
副作用は?
やはり前提としてCCBと同じように、高血圧治療薬とは長年の付き合いとなる場合がほとんどのため、一生飲んでも安全と考えられるもののみ承認されていると考えてよいです。そしてARBはCCBよりも、症状として自覚できる副作用が生じることは経験上、ほとんどないこともメリットです。検査すると分かることがある副作用としては、血液中のカリウム上昇と見かけ上の腎機能低下があります。カリウムが上昇すると、こむら返りや手足のしびれなどを自覚することがありますが、ほとんどは無自覚です。高カリウム血症は、高齢者や腎機能が低下した患者さんに生じることが多いため、特にそのような患者さんにおいては、処方開始から1か月程度で血液検査を行ってチェックすることが望ましいです。主治医の先生の指示に従ってください。
妊婦さんは絶対に内服できません
アンジオテンシンIIは、特に妊娠初期において、腎臓の成長に必須のホルモンです。腎奇形などを生じるため、妊娠中は内服できません。このように、特定に対象に使ってはいけない薬剤の事を禁忌薬と言います。妊婦さんに対して、ARBは禁忌薬です。ただ、このことは広く知られていますし、妊娠されている方は処方されるお薬に対して防御的になり、自分から「妊娠しているのですがこのお薬は飲んでも大丈夫でしょうか?」と聞くケースがほとんどでしょうから、このような事故が起きたケースを国内で耳にすることは今のところありません。
妊娠を希望する患者さんでも内服が勧められるケースについて
上で述べたように、妊娠中は内服が出来ない薬ですが、妊活中は内服可能であると考えられています。例えば、慢性糸球体腎炎などで蛋白尿が多い患者さん、ARBを使わないと血圧がコントロールできない患者さんにおいては、医師と患者さんの話し合いと同意の上で、内服することが出来ると考えられています。その場合、妊娠が判明した時点ですぐに内服を中止し、必要に応じて他のお薬に切り替えます。どのようなお薬が内服可能かは、こちらの記事もご覧ください。このケースにおいては、高血圧に詳しい医師、とくに高血圧専門医に相談し、利点と欠点を良く理解したうえで判断することにしましょう。
まとめ
ARBは安全性が高く、CCBと同じように高血圧患者さんの6割以上で内服されているお薬です。高齢の患者さん、腎機能に不安がある患者さん以外においては、嫌がることなく内服した方が良いといえるお薬です。特に、蛋白尿を伴う慢性腎臓病の患者さんにおいては、積極的に進められるお薬です。CCBや利尿薬と相性がいいため、配合剤が多数あるのもメリットです。降圧薬は少量併用の方が、単独のお薬をどんどん増やすより、費用対効果に優れることが知られています。血圧が高い方は、配合剤を利用するメリットについて、主治医の先生に聞いてみると良いでしょう。
出典
1) 医療薬学 43(1) 9―17 (2017)
2) 高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)
3) Satoh M, Imai Y et al; J Hypertens, 2016, Mar 28.
この記事の監修
谷田部 淳一
医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。
医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。