基礎知識2020.10.18

男女の違いを考えよう(女性の高血圧)

 高血圧は、生活の質を下げ、ひいては死をも招く主要な原因です。血圧の適切なコントロールは、男女を問わず必要なのですが、男性に比べて女性は、第二次性徴、妊娠・出産、閉経など、ライフステージによる変化が大きく、男性とは異なる配慮を必要とします。出産年齢の高齢化や不妊治療による妊娠の増加に伴って、血圧と妊娠を考えるケースが増加しています。ここでは、女性の高血圧について、若年(妊娠前)、妊娠・出産、閉経期・老年期ごとに分かりやすく説明します。

若い女性の高血圧

 30歳前後ぐらいまでの若い女性の血圧は、同年代の男性よりも収縮期血圧で10 mmHgぐらい低いようです。そのため、女性は高血圧の影響が男性よりも強く表れるとも言え、同じ程度の血圧で比較すると、女性のほうが男性に比べ心血管病を起こすことが多いと言われています。男性と比較して、若くから血圧が高かった女性は高リスクと考えてより早く対応を始めるべきです。

若い女性では二次性高血圧を考える

 若い女性の場合、二次性高血圧では、特に原発性アルドステロン症、腎血管性高血圧、甲状腺機能異常などを考えて積極的に検査します。原発性アルドステロン症や腎血管性高血圧は、高血圧以外の症状に乏しく、疑わなければ単なる高血圧(本態性高血圧)とされてしまうことも多くなります。しかし、これらが原因であれば手術することにより高血圧の治癒が可能となります。特に、妊娠・出産を考えた場合、事前に高血圧を根治させることで降圧薬がいらなくなるという利点は大きいです。

甲状腺疾患なら不妊や胎児への影響もある

 甲状腺機能異常は、高血圧の原因となっていることもあります。橋本病という言葉は聞いたことはありますか?橋本病は甲状腺機能の低下をきたすことがあり、甲状腺機能低下は、不妊症の主要な原因です。また、妊娠出来ても、妊娠中の胎児発育の維持には甲状腺機能低下を避ける必要があるため適切な対応が必要です。

 逆に、バセドウ病は、甲状腺機能を亢進させることのある病気です。若い女性に多く、早産や胎児甲状腺機能亢進症の原因となることがあります。お母さんだけでなく、胎児の健康を考え、若い女性の高血圧では甲状腺機能を調べておくことが大切です。

妊娠希望の女性では、注意の必要な降圧薬がある

 あなたが40代までの女性でパートナーがいるなら、いつ妊娠してもおかしくないと考えましょう。海外での調査では、妊娠の約半数は予定していない妊娠だったと報告されているのです。

 妊娠を希望する、もしくは妊娠可能な女性においては、使用に注意が必要な降圧薬があります。ARB/ACEIというお薬があります。これらは、胎児の発達に影響を及ぼすため、妊娠中には使えない薬です。ただし、高血圧の種類や基礎疾患によっては、どうしてもこれらの薬を使わないと血圧をコントロールできない女性もおられます。その際には、妊娠が判明したらすぐに内服を中止すれば大丈夫とも言われています。でも、安心してください。妊娠初期には通常、血圧低下がみられるので、妊娠判明時に降圧薬の減量・中止を行っても問題ない場合が多いのです。

高血圧と妊娠出産をもっと詳しく

妊娠高血圧症候群って何だろう

妊娠に関連した高血圧は妊娠高血圧症候群と呼ばれています。160/110 mmHgを超えるような重症高血圧となれば、下図のように、お母さんや赤ちゃんに大きな影響を与えることも考えられます。でも安心してください。産科の先生や高血圧の専門家としっかり相談して対応することで、問題なく出産できることがほとんどです。もちろん、例外にならないようにするには血圧コントロールが重要です。



しかし実は、妊娠中の降圧目標については現在でも、専門家の間でも見解がさまざまなのです。日本の指針(2015年)では、臓器障害を認めない場合140~160/90~110 mmHgで経過観察可能、臓器障害があれば140/90 mmHg未満目標を目指すとされています。



 ところが、国際高血圧学会では110-140/85 mmHg を目標として(DBP<80 mmHgで降圧薬減量/中止)とされ、解離があります。そのため、2021年には我が国における妊娠高血圧症候群への対応を最新版にまとめ治すことになっています。妊婦さんやその家族、医療者の不安を軽くするためにも、内容に注目したいですね。

コラム
 高血圧治療には、減塩が大切と言われていますが、妊婦さんではどうでしょうか?答えは、「減塩(6 g/日未満)は勧められない」です。非常に厳しい減塩を行った試験では、何の効果もないうえに、母体に悪影響があったとみられています。一方で、非妊娠者に推奨されている1日6 g未満の減塩は有益でないものの、7-8 g/日程度の減塩では、母体や胎児に悪影響なく血圧が低下したとの報告があるそうです。普段の生活よりちょっと食事に気を付けるくらいが妊婦さんには程よいようですね。


妊娠中に内服可能な降圧薬は?

妊娠中の降圧薬として、全妊娠期間で適応があるのは、メチルドパ、ラベタロール、ヒドララジンといわれる薬です。しかし、これらの薬は降圧力に劣るため、血圧を十分に低下させるためには今一つであることも事実です。カルシウム拮抗薬であるニフェジピンの徐放剤(ニフェジピンCR)は、妊娠20週以降で使ってよいことになっている、降圧力に優れた薬剤です。妊娠20週以前の使用は禁止されているのですが、妊娠前から使っていた例では問題ないとの見解も専門家の間から出ており、あなたが内服を進められた場合には担当の先生とよく相談してみましょう。なお、妊娠中、授乳中に使えるお薬も表にまとめておきます。

種類 薬の一般名 妊娠中 授乳中
カルシウム拮抗薬 ニフェジピン
アムロジピン
ニカルジピン
ジルチアゼム
妊娠20週以降で可能
不可(可能なケースも)
不可
不可
可能
可能
可能
可能
αβ遮断薬 ラベタロール 可能 可能
中枢作動薬 メチルドパ 可能 可能
血管拡張薬 ヒドララジン 可能 可能
ACE阻害薬 カプトプリル
エナラプリル
不可
不可
可能
可能


出産後も、長期にわたって血圧に注意!

妊娠高血圧症候群を経験した女性では、産後長期にわたって、高血圧や心血管病のリスクが高くなると考えられています。妊娠中に血圧が高くなったらよく覚えておきましょう。妊娠は、体に対するストレスチェックともいわれています。妊娠中のトラブルは、その後の人生で高血圧、糖尿病など様々な健康障害のリスクを反映しているかもしれません。検診をしっかり受診する、家庭血圧を測定する習慣をつけるなどして、血圧を含む体調に気を配っていけると良いですね。

閉経期・高齢者女性の高血圧

閉経とは、女性ホルモンがなくなることで起こる

 閉経後は急速に高血圧が上昇します。なぜなら、血圧低下作用を持つ女性ホルモンの低下してしまうからです。



 次の原因として多いのは、体重増加に伴うものです。年齢によって基礎代謝が減っているところで、更年期のストレスで食べすぎたりしていませんか?体重管理が、高血圧の予防・コントロールにとってとても大切です。

女性の血圧コントロール率は男性より悪い?

 女性では、検診受診率が低かったり、閉経前は低かった血圧が急速に上昇するため気づくのが遅れたりしてしまい、男性に比べて降圧目標達成率は低いとも言われています。また、女性のほうが男性よりも油断や惰性に陥りやすいという話も。寿命の長い女性だからこそ、いつまでも元気でいるために、閉経後の血圧管理には気を配りたいものですね。

さいごに

 女性と血圧、男性との違い、という形で考えることは普段少ないかも知れませんが、明らかに男性とは別の考え方で対応する必要があります。経験豊富な医師や医療機関を見つけるのも難しい分野ですので、この記事が参考になれば何よりです。お問い合わせは、一般社団法人テレメディーズでも受け付けています。悩んだら、ぜひ相談されてみてはいかがでしょうか?

谷田部緑

この記事の監修

谷田部緑

医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ理事


医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ理事


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