治療法2020.10.18

高血圧ケアの概要を一挙解説

 高血圧ケア・治療は段階的に進みます。早めの対策で、薬に頼ることなく改善することも。減塩をはじめとした生活習慣の見直しが有効かつ基本ですが、薬だって強い味方。あなたの健康を守るため、高血圧治療の誤解を解いていきましょう。

 血圧を下げるには、主に3つの方法があります。生活習慣の修正、非薬物療法と薬物療法です。血圧の高い人はもちろん、あらゆる人において、健康に過ごすために生活習慣を見直すことは有効です。

生活習慣の修正で血圧は低下する


ここがポイント!
★最も効果が大きいのは複合的な食事療法、主役は減塩とカリウム摂取
★過体重~肥満の方には減量が極めて有効、糖尿病の予防にも
★積極的に運動することで医者いらず
★適量の飲酒は心血管病を遠ざけるが、過量飲酒はいろいろ問題


 心血管病を引きおこす原因になるとともに、死亡リスクにもなる主な生活習慣は、喫煙、塩分の過剰摂取、運動不足、肥満(カロリー過多)、過剰なアルコールの摂取などです。順番に見ていきましょう。


何と言っても減塩は血圧ケアの主役です

 皆さんは、“高血圧に関する川柳・標語コンテスト”をご存知ですか?2018年版に“<減塩の定理> 塩 -1g = 血圧 -1mmHg”が入賞しました。すなわち、1 g減塩できれば、血圧が1 mmHg下がるという意味です。現在、平均的な日本人は1日8-11 g程度の食塩を摂取していると言われています。これを、日本高血圧学会は6 gまで、WHOやアメリカでは5 gまで減らしましょうとしています。すなわち、10 gの塩分の取っている人が、6 gまで減塩できれば、血圧は4 mmHg下がります。小さな差のように感じられますが、収縮期血圧143 mmHgだった人が139 mmHgになれば、すぐに服薬しなくても他の生活習慣改善に取り組むことで、さらなる改善が見込まれることになります。お薬の内服に消極的な人にとっては大きな違いですよね。減塩は大きなトピックなので、別の記事でまとめて解説いたします。

カリウムは食塩へのカウンターパンチ!

 カリウムは、様々な働きで血圧上昇を妨げる働きがあります。果物や野菜のほか、次のような食品にカリウムが多く含まれます。



食塩とカリウムの関係、高血圧ケアのための食事療法は、別記事で詳しく解説します。

体重、気になっていませんか?

 適正体重に近づけることが、高血圧対策になります。過体重~肥満の方は、4 kg減量することによって、4 mmHg前後の体重減少効果を望めます。また、糖尿病の罹患率が30%程度低下します。いいことづくめですね。
 体重の評価は、BMIを求めることによって行います。

BMI(Body Mass Index) = 体重(㎏) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)

体重60 kg、身長1.6 m(160 cm)の人のBMIは、
60 kg ÷ 1.6 ÷ 1.6 = 23.4
となります。下の表に当てはめてみてください。

BMI 肥満の程度 日本肥満学会による判定 身長160 cmでの体重
18.5未満 やせ やせ 47 ㎏未満
18.5~24.9 適正 ふつう ~64 kg
25.0~29.9 肥満 肥満1度 ~77 kg
30.0~34.9 高度肥満 肥満2度 ~89 kg
25.0~39.9 高度肥満 肥満3度 ~102 kg
40以上 高度肥満 肥満4度 102 kg以上

目指すBMIを決めたら、

身長(m) × 身長(m) × BMI = 目指す体重

上の式から、目標体重を設定できます。まずは、表の一つ下のカテゴリーを目指しましょう。

Exercise is medicine

 肥満の多い米国などを中心に、「運動は薬に勝る」という概念があります。わが国でも、運動不足が様々な病気の原因になっていて、認知症との関連も明らかになっています。有酸素運動を定期的に行うと、血圧が3-4 mmHg下がることが知られています。もちろん、運動をすれば減量の効果も望めます。



 上記のように、ウオーキングやジョギングは、気軽に取り組める運動です。是非、チャレンジしてみましょう。運動は、奥の深いテーマですので、また別記事で詳しく解説します。

酒は飲んでも飲まれるな、減酒のススメ

 度を越えた飲酒習慣は、血圧上昇、特に早朝高血圧の原因になります。大量飲酒は、心筋症、心房細動、夜間睡眠時無呼吸などを引き起こすだけでなく、がんの原因になることも知られています。ただ、少量・中等量のアルコール摂取は、心血管病を減らすという研究も数多く、議論となることもあります。ただ、事故や犯罪の原因になることもあることから、適切な飲酒量を守る必要があることは明らかでしょう。

 高血圧の管理においては、下図のような飲酒量を守り、休肝日を設けることが肝要です。

禁煙は必須です

 喫煙が、動脈硬化症や脳心血管病のリスクであることは明らかです。また、がんなどを通して、死亡に関わる第1位の危険な生活習慣であることが分かっています。喫煙は一時的に血圧を上昇させますが、血圧に与える長期的な影響は不明でした。しかし最近では、やはり慢性的な血圧の上昇にも関与しているだろうとの考え方が大勢です。血圧への関与には議論があっても、様々病気の原因となり、寿命を縮めるのは間違いありません。何よりも禁煙が求められます。それは、最近流行している加熱式タバコだから大丈夫ということは決してありません。とにかくやめましょう。それに尽きます。

その他の非薬物療法

 生活習慣改善以外に考えられる薬に寄らない治療法もいくつかあります。生活環境に近いが、冬の寒さを避ける、ストレスマネジメントを行う、便秘による排便時のいきみをなくす、などが考えられます。

 また、二次性高血圧症の有無をきっちり見てもらうことも大切です。別に説明していますが、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、副腎性クッシング症候群のような病気が原因であれば、副腎摘出する手術が根治療法になります。また、睡眠時無呼吸症候群であれば、CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)を行うことよって、血圧が低下するとともに、致死的不整脈などの予防にもつながります。それぞれの可能性については、担当医に相談すると良いでしょう。

やっぱり最後は薬が強い味方


ここがポイント!
★生活習慣を改善しても血圧が下がらなければ薬物療法へ
★主に使われている薬は2種類+次に利尿剤
★薬物療法は強い味方、否定から入らない方が有益


 生活習慣改善やそのほかの薬に寄らない治療法によっても十分に血圧が低下しない場合には、薬物療法を導入することになります。薬物療法を導入するタイミングについては、下の記事を参考にしてください。
【治療法】高血圧だと分かったら~まずナニする?
 最初に選ばれる降圧薬は、次に示す4種類から選ばれることが多いです。

カルシウム拮抗薬

 日本で最も多く使われている降圧薬です。
 アムロジピン、ニフェジピンCRがそのほとんどを占めます。長時間作用するため、1日1回の内服ですみます。副作用も少なく、顔が赤くなったり、足が少しむくんだり、長期の内服で歯肉がはれたりすることがありますが、稀または軽度で内服を妨げるほどではないことが多いです。相互作用としては、グレープフルーツジュースが有名ですが、もしも一緒に摂取しても症状につながることは多くないようです。

ARB

 カルシウム拮抗薬と同じくらい多く使われている降圧薬です。アンジオテンシンIIという血圧上昇ホルモンの作用を遮断して血管を拡張します。安全性が高く、ほとんど副作用や相互作用がありません。カリウムが上昇することがありますが、腎臓の機能が正常の方にはほとんど起こらないようです。逆に、腎機能がすでに低下している人では慎重な観察が必要です。

ACE阻害薬

 ほぼ、上記ARBと同じ仕組みに作用して血圧を低下させます。有名な副作用に空咳があります。そこで、咳の副作用を逆手にとって、高齢者の誤嚥性肺炎を防ぐメリットがあると言われています。また、心不全の再発予防には、他の薬より効果があると証明されています。

利尿薬

 古くから使われています。腎臓に作用して、ナトリウムや水の排泄を助けます。ループ利尿薬、サイアザイド利尿薬などの種類があります。日本人は塩分摂取量が多いため、他の薬と組み合わせて使うと、降圧効果が見違えるほど良くなる場合もあるため、降圧薬を徐々に増やす必要がある場合、3種類目には利尿薬を使ってみると良いとされています。

さいごに

 高血圧の治療法を、ざっと説明しました。減塩、カリウムの積極的摂取、運動、薬物療法など、それぞれに詳しく知るとメリットがあります。別記事にまとめていきますので、是非またご覧ください。

 高血圧ケア・治療にはいくつかのコツがあります。生活習慣改善においては、自分の得意なことから始めることです。嫌なことは長続きしません。一つのことがある程度できたら、他の事を組み合わせることです。一つのことでは降圧効果に限界があります。少しずつでも複合的に取り組むことによって、相加的、相乗的効果が期待できます。そして、血圧が思うように改善しない場合、降圧薬に頼る方法を否定しないことが重要です。今の降圧薬は大変安全かつ効果的にできています。巷にあふれるネガティブな情報に惑わされることなく、薬を受け入れることによって少なからず不安から解放されます。また、確実に将来の病魔を遠ざけることができます。
 
 最近では、通院不要のオンライン診療も始まっています。導入と活用のアドバイスは、一般社団法人テレメディーズでも行っています。お気軽にお問い合わせください。

谷田部 淳一

この記事の監修

谷田部 淳一

医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。

医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。

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