基礎知識2020.10.18

あなたは本当に高血圧ですか?

 正しく家庭血圧が測れたら、あなたはどのタイプの高血圧か判定しましょう。とりあえず放っておいても大丈夫な高血圧(白衣高血圧)もありますよ。逆に、静かに忍び寄る恐ろしい高血圧も(なまはげ高血圧ならぬ仮面高血圧)。これを読めば、あなたも1日高血圧専門医?!自分の血圧タイプを自己診断してみよう!

まずは復習 高血圧の診断基準

ここがポイント!
★診察室血圧では140/90 mmHg以上で高血圧
★家庭血圧では135/85 mmHg以上が高血圧
★普段の生活を送りながら15~30分間隔で24時間測定する「24時間行動下血圧」における高血圧の基準値は130/80 mmHg以上


日本の高血圧者は約4,300万人

 日本には、高血圧の人が大勢います。厚生労働省が行った「平成26年患者調査」では、高血圧で治療を受けている人数は、約1,010万人に及ぶと分かりました。ところが、厚生労働省は一般向けの健康情報サイト「e-ヘルスネット」によると、治療を受けていない人や自分が高血圧だと気が付いていない人も含めると、高血圧の人口は約4,300万人、つまり日本人の約3人に1人と推定されています。ん?!何かおかしくありませんか?そうです。4,300万人いるとかんがえられている高血圧者のうち、1,000万人しか治療していないのかもしれないのです。高血圧はほとんど自覚症状がないため、知らないうちにあなたも「高血圧」になっている可能性も、無いとは言い切れないのです。

 それではどうしたら高血圧に気付けるのでしょうか。その答えは、「定期的に血圧を測定すること」です。しかし血圧を測定しても、その値が高いのか低いのか、判断が出来なくては意味がありません。それを判断するために、高血圧の「基準値」というものが、日本高血圧学会により決められています。

 それでは、具体的に基準値を確認していきましょう。高血圧の基準値は、測定法の違いによって若干異なった数値に設定されています。主な測定法は、「診察室血圧」「家庭血圧」「24時間自由行動下血圧」の3通りです。それぞれの測定法と基準値を見ていきましょう。

診察室血圧は、140/90 mmHg以上で高血圧

 診察室血圧は病院で測定する血圧で、主に医師や看護師などの医療者が測定します。診察室血圧による高血圧の基準値は、140/90 mmHg以上です。診察室血圧の高さによる分類は、こちらの記事を参照してください。医療者と向かい合って緊張しやすい人は、高めの血圧となることも多いようです。また、家庭以外で測った血圧は、すべて診察室血圧として扱います。例えば、役場、公民館、薬局、スポーツジムなどで測定した血圧です。これらは、測定条件がまちまちで、繰り返し定期的に測られる血圧ではないという点で、診察室血圧と似ているからです。

家庭血圧は、135/85 mmHg以上で高血圧

 家庭血圧は、自宅で毎日同じ時間に測定した血圧です。家庭血圧による高血圧の基準値は、135/85 mmHg以上です。居なれた自宅でリラックスして測られることが多いため、診察室血圧よりも5 mmHg低い基準値となっています。家庭血圧の高さによる分類は、こちらの記事を参照してください。家庭血圧が高い方は、同じ診察室血圧の人と比較して、より重症であることに注意が必要です。

24時間自由行動下血圧は、130/80 mmHg以上で高血圧

 24時間行動下血圧は、普段通りの生活を送りながら15~30分間隔測定した血圧です。血圧の変動が大きく、診察室血圧や家庭血圧では高血圧の診断が難しい人に適用されます。また、夜間の血圧が高いかもしれない人でも実施します。24時間自由行動下血圧による高血圧の基準値は、130/80 mmHg以上です。通常、寝ている間には大きく血圧が低下します。そのため、1日を通した平均値は、診察室血圧や家庭血圧よりも低い基準が設定されています。



診察室血圧と家庭血圧が全然違うときってどうすればいいの?

ここがポイント!
★診察室血圧だけ高い場合を白衣性高血圧と呼ぶ
★診察室では低いのに、家庭血圧や24時間血圧が高い場合を仮面高血圧と呼ぶ
★すでに高血圧治療を受けていて診察室の血圧が高くなる現象は白衣効果
★白衣性高血圧と白衣効果は、現状維持で問題ない
★仮面高血圧は治療開始や治療内容の変更が必須


まず重要なこと、家庭血圧の値が優先される

 これが最も重要です。日本で30年以上前から行われている「大迫研究」は、長期にわたって家庭血圧と合併症発症の関係を調査した世界的に有名な疫学研究です。この研究により、診察室血圧よりも、毎日のように繰り返し測定される家庭血圧の方が、脳卒中や心臓病などの発症を予測するために有用であったことが示されました。最も、診察室血圧は再現性に乏しく、測定法も言葉は悪いですが”いいかげん”であることは別の記事で解説した通りです。そのため、日本の高血圧ガイドラインでは、「診察室血圧と家庭血圧の間に乖離がある場合には、家庭血圧を優先して診療方針を決めるべし」と明確に定められています。世界の主要なガイドラインの最新版では、日本に続く形で家庭血圧の有用性を強調するようになりました。高血圧診断の前提として、家庭血圧を一定期間きっちり測定することが必要です。

白衣性高血圧は不要な治療開始や強化のきっかけになることも

 毎日測定した家庭血圧では正常なのに、診察室や検診では血圧が急上昇してしまう人がいます。これを、白衣性高血圧と呼びます。たとえ診察室血圧が160でも180でも、家庭血圧が110なら原則的に治療の必要はありません(発作的に血圧が上昇する稀な疾患もあるため、必ずしも油断はできませんが)。このような高血圧に初回から薬を出され、血圧が低下しすぎて具合を悪くする人もいます。家庭血圧測定は、日頃の健康管理としても、自分の身を守る手段としても大切なのです。白衣性高血圧は、その時点では将来の合併症発症との関連はないと言われています。しかし、将来の高血圧発症とは関連するという研究結果もあります。白衣性高血圧をきたす人は、全く動じない正常血圧の人よりは、日頃の生活習慣に気を付けて高血圧にならないようにする配慮は必要です。


白衣効果という言葉もきいたことがあるけど

 白衣性高血圧は、生まれてこのかたずっと血圧が正常だった方に起こる、緊張による高血圧を指す言葉です。高血圧となり、治療を受けていて、普段はきっちりとコントロールされている人が、診察室でのみ血圧が上昇する場合は白衣効果と呼びます。いずれにしても白衣性高血圧と同様、普段の治療を継続すれば大丈夫です。白衣効果も過剰な治療強化のきっかけになりえます。普段の血圧は十分にコントロールされていることを医師に示すためにも、きちんと家庭血圧を記録することが肝要です。

普段は高いのに、診察室でだけ血圧が低い人がいます

 これを、仮面高血圧と呼びます。仮面高血圧は非常に危険です。仮面高血圧の種類や誘因をまとめますね。

タイプ 主な誘因
早朝高血圧 アルコール・喫煙
寒冷
持続時間の不十分な降圧薬
昼間高血圧 職場でのストレス
家庭でのストレス
夜間高血圧 食塩の取りすぎ
糖尿病
睡眠時無呼吸症候群
不眠・うつ状態

 分かりやすい例では、毎朝血圧の薬を飲む人がいるとします。早朝、正しく血圧を測っていますが、いつも150/100 mmHg程度と高めです。毎日の習慣として血圧の薬を飲み、今日は受診日なのでクリニックに行きました。そこで測った血圧は、130/80 mmHgとやや高めであるものの、おおむね落ち着いているため、医師は治療方針を変えませんでした。これが、典型的な仮面高血圧の見逃しとなります。この場合、朝まで薬の効果が持続していないと考え、より持続時間の長い薬に変更する、内服のタイミングを夜にする、睡眠時無呼吸や不眠がないか確認するなどの対応が必要なります。

 仮面高血圧は、持続的な高血圧と比べ、心血管合併症の発症リスクが同等であると知られています。適切に対応しないと、困ったことになる点で、高血圧を放置している人と変わらないという残念な結果を招きかねません。




年齢や性別による高血圧の違いってあるの?

ここがポイント!
★子供は大人より血圧が低い 逆に言うと大人の高血圧基準を超えれば明らかに異常
★高齢者は診断基準よりも降圧目標に個人差あり
★女性はライフステージごとに血圧が変化することも


小児の高血圧が増えている?

 成人における血圧の正常範囲が確認出来たところで、次に、小児(子ども)の血圧の目安について見ていきましょう。
子どもの血圧は、成人に比べて低い傾向があります。子どもの血管は若く弾力性に富み、また、子どもは血液量も少ないので血圧が高くなりにくいためです。しかし最近では、子どもの肥満や増えているように、血圧の上昇も少なからずみられるようになっています。高血圧治療ガイドラインでは、小どもにおける血圧の正常範囲については触れていませんが、子どもの高血圧の基準値については明記しています。下の表をご覧ください。

 子どもでも、この基準値を超えた場合には高血圧について詳しい医師に相談した方が良いでしょう。生活習慣ではなく他の病気が原因で血圧が高くなっている可能性もあるので、子どもの血圧が高い場合には早めに病院で検査を受けるようにしましょう。

収縮期血圧(mm Hg) 拡張期血圧(mmHg)
幼児 ≧120 ≧70
小学校 低学年
    高学年
≧130
≧135
≧80
≧80
中学校 男子
    女子
≧140
≧135
≧85
≧80
高等学校 ≧140 ≧85

高齢者の高血圧の目安

 次は高齢者について見ていきます。
 年齢を重ねるごとに血管は、弾力性を失い硬くなっていきます。さらに血管の壁も厚くなり、やがて血液の通り道が狭くなる「動脈硬化」という状態になっていきます。動脈硬化は、年齢とともに進行していきます。動脈硬化が進行すると、心臓が血液を全身に送るためにより強い力が必要となり、血圧が上がります。つまり、高齢になるほど動脈硬化が進み、それに伴い血圧値は当然高くなって行きます。年齢を重ねるほど高血圧の人の割合は高くなっていきます。高血圧治療ガイドラインには、65歳~74歳の約66%、75歳以上では約80%以上もの人が高血圧と推定されていると記載されています。これを、加齢現象だから当然だ、と結論付けるのは早計です。高齢であっても、140/90 mmHgを超える高血圧の方は、心不全などを発症しやすいことが知られています。

 注意が必要なのは治療を開始・継続・強化するときです。最近の研究では、高齢であってもより低い血圧が望ましいと証明されてきています。ただ、動脈硬化の進行により、血圧を自分で適切に維持する能力が低いことも事実です。人それぞれの特性を考慮して、より慎重に緩やかに血圧を調整する必要があります。高血圧の治療については、また別途解説します。

女性の高血圧

 女性には、出産と更年期という男性にはない重要なライフイベントがあります。まず、妊娠に関しては出産年齢の高齢化により、合併症妊娠とされている高血圧や糖尿病を有する妊婦も少しずつ増加しているとされます。また、出産後は子育てによるストレス、その先には、更年期を迎え女性ホルモンが低下することによる血圧の急激な上昇が待ち受けています。

 女性の扱いには丁寧さと繊細さが求められます。いつの世も(笑) そのため、女性の高血圧は別の記事にて詳細に解説することとします。

おわりに

 高血圧の基準値は、だれが何と言おうと診察室血圧では140/90 mmHg以上、家庭血圧では135/85 mmHg以上です。自分の血圧がどのくらいの値か分からないという人は、この機会に家庭血圧計の購入をお勧めします。テレメディーズのサービスは、専用血圧計とアプリで管理でき、専門家からのアドバイスもすぐにもらえるのでお勧めです。

 血圧が基準を超えていなくても、血圧は連続値であることに注意してください。収縮期血圧が130でも、120の人と比べればより危険です。高血圧の予防や改善のために、今日から適切な食事、運動、節酒などを心がけていきましょう。

谷田部 淳一

この記事の監修

谷田部 淳一

医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。

医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。

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