血圧って?高血圧って? そもそも論から始めよう
血圧ってそもそもなあに?
★血圧には収縮期血圧(上の血圧)と拡張期血圧(下の血圧)がある
★血圧が高ければ高いほど、血管の負担が大きくなっていく
血圧とは、血管の壁にかかる圧力の事
「血圧」とは、「血液が血管の中を流れる時に、血管の壁にかかる力」のことです。この力は、「血管を流れる血液の量(循環血液量)」と「血管の硬さ(末梢血管抵抗)」で決まります。また、血圧には「収縮期血圧(いわゆる、上の血圧)」と「拡張期血圧(下の血圧)」の2つの数値があり、収縮期血圧/拡張期血圧 mmHg(例えば120/70 mmHg)と表されます。読み方は、「120、70ミリエイチジー(またはミリメートル水銀柱、ミリメートルマーキュリーでもOK!)」です。
収縮、拡張は心臓の動き
心臓は血液を全身に送り出すためのポンプの役割をしていますね。収縮期血圧は、心臓がぎゅっと縮んで全身に血液を送るときに血管にかかる圧力です。もう一つの拡張期血圧は、縮んでいた心臓が元の形に膨らんで、送り出していた血液が心臓に戻ったときにも、血管に残っている圧力のことです。収縮期血圧、拡張期血圧は、心臓の形をを指しているんですね。
血圧が高いと血管に負担がかかる
ビニールホースは古くなると固くなり弾力が低下します。人間の血管も古くなる=年齢を重ねると固くなりますので、抵抗が増すことで血圧の上昇を引き起こします。また、風船は、水を入れすぎれば破れてしまいます。脳の中にある血管にも風船のようなこぶを持っている人がいます。これを脳動脈瘤といいます。血圧があまりにも高いと、この風船が破れてしまうことがあります。突然の頭痛に始まり、意識がなくなるなど緊急の状態を引き起こします。これがくも膜下出血です。血圧が高いと血管に負担がかかり、重大な疾患のきっかけになってしまいます。
私って高血圧なの?
★とはいえ、120/70 mmHgを超えれば合併症の危険度が連続的に上昇する
★高血圧は自覚症状がほとんどないため、長く放置しがち
高血圧の定義は世界基準
時々、高血圧は加齢現象なので「年齢+80は正常だ」というような話を、まことしやかにされる方がおりますが、全くのデマ、フェイクです。このような言説は、世界中どこの専門家に聞いても誤りであると語ってくれるでしょう。わが国、主要な欧米諸国、中国、韓国、シンガポール、タイ、マレーシア etc.どこの国の基準を見ても、140/90 mmHg以上は高血圧であり、下げる努力が必要という認識に違いはありません。理由はまた別のコラムでご説明します。いずれにしても、血圧は、低ければ低い方がいいのです。
診察室血圧と家庭血圧では見方が異なる!
下の表を見てください。あなたの血圧はどの分類に当てはまりますか?まずは、診察室血圧から見てみましょう。
分類 | 診察室血圧 (mmHg) |
---|---|
最高血圧 最低血圧 | |
正常血圧 | <120 かつ <80 |
正常高値血圧 | 120〜129 かつ <80 |
高値血圧 | 130〜139 かつ/または 80~89 |
I度高血圧 | 140〜159 かつ/または 90~99 |
II度高血圧 | 160〜179 かつ/または 100~109 |
III度高血圧 | ≧180 かつ/または ≧110 |
収縮期高血圧 | ≧140 かつ <90 |
次に、家庭血圧での分類基準を見てみましょう。
分類 | 家庭血圧 (mmHg) |
---|---|
最高血圧 最低血圧 | |
正常血圧 | <115 かつ <75 |
正常高値血圧 | 115〜124 かつ <75 |
高値血圧 | 125〜134 かつ/または 75~84 |
I度高血圧 | 135〜144 かつ/または 85~89 |
II度高血圧 | 145〜159 かつ/または 90~99 |
III度高血圧 | ≧160 かつ/または ≧100 |
収縮期高血圧 | ≧135 かつ <85 |
日本の高血圧ガイドラインは、世界に先駆けて、家庭血圧の重要性をうたっています。日本高血圧学会によってまとめられた、最も新しい2019年の治療ガイドライン(JSH2019)では、2つの大きな変化がありました。
120以上は血圧高め!
前回2014年のガイドラインでは、至適血圧とされていた血圧レベルは正常血圧に、正常血圧は正常高値血圧に、正常高値血圧からは”正常”の文字が消え、高値血圧と呼び変えられました。すなわち、純粋に正常といえるのは収縮期血圧で120 mmHg未満のみであり、120 mmHg以上は【血圧高め】である事実です。120 mmHgから140 mmHgまでは、真の高血圧に至るまでに与えられた猶予期間と言えます。私たちは、このレンジにいる間にこそ、何らかのアクションを起こさなければならないのです。
家庭血圧でも高血圧を診断できる!
もう一つの劇的な変化は、血圧値の分類を、家庭血圧で行うことができるようになったことです。先ほどの家庭血圧の表は、最新のガイドラインで初めて掲載されたものです。正しい方法で測定された家庭血圧であれば、皆さん自身で、自分の血圧がどの分類となるのか、判断することができます。後で説明しますが、「診察室血圧と家庭血圧の測定値に乖離がある場合、家庭血圧を優先して判断する」とも提言されておりますので、これからの高血圧ケアには、家庭血圧が欠かせないものであると分かります。
ただし、家庭血圧では測定法ももちろんですが、分類の際に注意する点があります。家庭では、診察室よりもリラックスしていることが多いため、低めの血圧では診察室血圧から5 mmHgを引いた値で切ることになっています。でもちょっと待ってください。表を見比べていただけると、I度高血圧以上は、単純に5mmHgを引いた数値ではないことが分かります。例えば、診察室で測定した収縮期血圧165 mmHgは、第二段階の危険度となるII度高血圧となりますが、もしも家庭で測定した血圧が165 mmHgであったなら、それは最も危険と判断されるIIIど高血圧に相当します。一般に、健康診断や人間ドックでは、160 mmHgを超えて初めて受診するように勧められることが多いのですが、家庭血圧での145 mmHgは診察室血圧の160 mmHgに相当します。そのため、家庭血圧で収縮期血圧145または拡張期血圧90 mmHgを持続的に超える場合、II度高血圧と判定されることから、早めに医療機関を受診し、正しいアドバイスを受けることが肝要です。
じゃあ、何で高血圧になるんでしょうか?
★特定の原因に寄らない高血圧を、本態性高血圧症という
★単一の原因によって高血圧が発症または悪化している場合を、二次性高血圧症という
★二次性高血圧症は治る高血圧、逆に言うと、適切に治療しないと十分に血圧は下がらない
本態性高血圧って?
”本態性”というのは、原因が分からないときに使う医療用語です。よく、「父が血圧高いので私も」といったお話を伺いますが、その通りです。”遺伝的素因”といいます。血縁者の中に血圧の薬を飲んでいる家族がいる場合、私も気を付けなければと思われた方が良いでしょう。そのような遺伝要素に、”環境因子(要因)”が加わることによって、血圧が上昇します。特に、塩分の取りすぎの肥満の影響は大きいようです。
高血圧を完全に治すことができると聞きましたが、本当ですか?
高血圧には、一つの原因によらない本態性高血圧のほかに、二次性高血圧と妊娠に関連する高血圧があります。二次性高血圧は、特定の原因によって高血圧が発症または悪化している場合を指します。
病名 | 原因 | 解説 |
---|---|---|
原発性アルドステロン症 | 副腎腫瘍または過形成 | 副腎からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌され、摂取した塩分と水分が排泄されづらくなることで体液が増加 |
甲状腺機能亢進症 | 甲状腺ホルモンの増加 | 代謝が亢進し、交感神経活動の上昇で心拍数が増加する |
甲状腺機能低下症 | 甲状腺ホルモンの低下 | 代謝が低下し、浮腫などが発生する |
クッシング病 | 下垂体腫瘍 | コルチゾールというホルモンが過剰になり、満月のような顔つき、肥満、血糖上昇なども生じる |
クッシング症候群 | 副腎腫瘍 | コルチゾールが過剰になるため、クッシング病と同じ症状が生じる |
褐色細胞腫 | 副腎腫瘍 | カテコラミンというホルモンが過剰になり、交感神経活動が上昇する 血圧上昇は一時的な場合が多く、急に動悸、発汗などを生じる |
これらの病気は、合計で高血圧全体の10%程度を占めるといわれています。二次性高血圧の原因として最も多いのは原発性アルドステロン症です。40代くらいの比較的若い層で顕著な高血圧を来す場合、この病気である可能性が高くなります。放っておくと50代や60代で腎不全や心不全になることもあります。逆に、これらを原因として生じている高血圧は、きちんと診断できれば手術ですっかり治ることもある病気です。若い人の高血圧ほど、一度は信頼できる医療機関に相談することが勧められます。
痛くもかゆくもない高血圧、放っておいてはいけないの?
★知らず知らずに死を招く、サイレントキラーと呼ばれる
★高血圧の合併症は、生活の質を低下させ、健康寿命を短縮する
高血圧の状態が続くと、私たちの体にはいったいどのような症状が現れるのでしょうか。
高血圧は無症状 ~ 歩み寄るサイレントキラー
高血圧には、はっきりとした自覚症状がほとんどありません。そのため、高血圧に気付かないで過ごしているうちに、いつの間にか重症化してしまい、突然死に至るような危険な病気を引き起こしてしまったというケースもあります。そのことから高血圧は別名「サイレントキラー」とも呼ばれています。
進行した先にある、命の危険につながる高血圧の合併症
高血圧は、特有の自覚症状というものがない病気です。「サインとなる症状」が現れないまま、いきなり命にかかわる危険な状態になる場合もあります。高血圧は、血管に高い圧力がかかる状態です。血管は、体の隅々まで張り巡らされているため、高血圧の合併症は全ての臓器に起こり得ます。脳・心臓・腎臓に関する合併症は命に関わるものが多く、気が付いたときには手遅れになる、という可能性が無いとは言い切れません。
早めの対策が、高血圧ケア成功の秘訣です
高血圧は脳梗塞や心不全など重い病気につながる可能性がありサイレントキラーと呼ばれる生活習慣病です。
高血圧に起因する日本の死亡者数は年間約10万人と推定されています。これは「心血管病による死亡者の約半数は高血圧」だったと推定されているという計算になります。
高血圧の怖いところは、「自覚症状がほとんどない」ところです。高血圧に早期に気付くためには、自分の血圧がどの程度なのかを知っておくことが重要です。健康診断の際には毎回、自分の血圧をチェックするようにしましょう。
健康診断は年に1,2回ですが、身近には、血圧測定が出来るチャンスは多くあります。例えば、公民館、保健所、市役所、薬局、総合病院の待合室など、身近なところに自分で簡単に測れるタイプの血圧測定器が設置されており、待ち時間などに無料で気軽に血圧を測定することが出来ます。これらの外出先で測定した血圧はすべて診察室血圧として扱います。また、家電量販店などではさまざまなタイプの家庭用血圧計が販売されており、家に血圧計があるという人も多いのではないでしょうか。少しでも血圧に不安のあるかたは、家庭での測定習慣を持つことが重要です。
高血圧の基準は、家庭で測定した場合には135/85mmHg以上、病院で測定した場合は140/90mmHg以上です。最近では、スマートフォンアプリを使って専門医に相談するサービスもあります。ネットにあふれる情報に判断を左右されないことが大切です。もしも自分の血圧が常に高いと気付いた場合には、早めに専門家に相談するようにしましょう。
この記事の監修
谷田部 淳一
医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。
医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。