基礎知識2020.10.17

血圧の正しい測られ方と測り方って?

 あなたは、正しい血圧測定法をご友人に伝えることができますか?クリニックに行って測ったもらった血圧の信頼性がどのくらいか知っていますか?誤った血圧測定に基づいて治療方針を判断することはとても危険です!自分の体を守るため、まずは血圧測定のお作法を学びましょう。

正しく血圧を測定するには環境が大切


ここがポイント!
★家庭以外で測定した血圧はすべて診察室血圧として扱う
★家庭で血圧測定をする場合に適した環境は、適切な室温と静かな部屋
★適した環境の下で、正しい姿勢で測定を行いましょう


血圧を測定できる場所は多々あれど…

 血圧を測定できる場所はたくさんあります。例えば、以下のような場所です。

場所 特徴
病院・クリニック 医師や看護師により測定
忙しいため、椅子に座ってすぐ測定することも
薬局 腕入れ型の大型血圧計の場合も 自分で測定することが多い
スポーツジム 運動後は血圧が低下することもしばしば
家庭 自分で測定 血圧計の種類が様々
その他 役場や公民館、家電量販店などにも血圧計がある


 上記のように、血圧計はあらゆるところで見かけます。では、どこで測定した血圧が最も信頼できる測定値なのでしょうか?それは、家庭で正しく測定した血圧です。あなたの家に血圧計はありますか?家庭での血圧測定は、いまや一般的になっており、珍しいことではありません。厚生労働省による国民健康・栄養調査では、わが国における家庭血圧計の普及率を約4,000万台と推定しています。この数から、血圧計は1家に1台ある家電(医療機器)と言っても過言ではありません。家庭以外で測定した血圧は、すべて診察室血圧として扱います。血圧値の精度は、家庭血圧>(超えられない壁)>診察室血圧、ですので、正しく診断し、適切な治療方針を定めるためには、家庭血圧の測定が欠かせません。

血圧測定に適した環境

 家庭で血圧を測定する場合に、正しい測定結果を得るために整えるべき環境について具体的に見ていきましょう。

室温:寒くも暑くもない室温に調整しましょう。特に冬場、寒い部屋での測定は、血圧を上昇させるので注意が必要です。

正しい姿勢:背もたれのある椅子に座って測定します。背もたれに寄り掛からないと十分にリラックスできず、測定値が高くなると言われています。血圧計のカフは心臓の高さに維持するようにしてください。椅子の前にテーブルをおいて腕を安定させると良いでしょう。

静かな環境:会話をすると血圧が上昇します。会話を交わさない環境で測定しましょう。


血圧計の種類にはどんなものがあるの?


ここがポイント!
★主な血圧計には、「電子自動血圧計」「水銀血圧計」「アネロイド血圧計」がある
★電子自動血圧計には「上腕式(巻き付け型)」「上腕式(アームイン型)」「手首式」がある
★水銀血圧計はなくなる運命
★血圧計は、精度管理され認証を受ける【医療機器】である
★指で測るタイプやウェアラブル(なんとかWatchなど)は、血圧計と呼ばない


 血圧計にはどのような種類があるのかを簡単に確認しましょう。

血圧計の種類と違い

水銀血圧計

 最近の若い方は、看護学生や医学生のように医療にかかわる仕事を目指す人以外、見たことも聞いたこともないかもしれません。10年ひと昔前くらいまでは、診療所に行くと”プシュプシュ”と膨らませて、聴診器で血圧を測ってもらっていましたね。ところがこの水銀血圧計での診察室測定、2つの点から今後は行われなくなってきます。
 
 1つ目の理由は、水俣条約の発効です。水俣病を引き起こした水銀汚染を世界的に防止しようという「水俣条約」を受けて、今使用しているものは続けて使って良いものの、新しく導入はしないことになりました。メンテナンスもできませんので、日本医師会は水銀血圧計の回収を進めています。近い将来、医療現場から水銀血圧計は消える運命です。

 2つ目の理由は、診察室血圧の正しい測定法が守られていないためです。次の表を見てください。

項目 ポイント
装置 長さ22-14 cmのカフを用いる。上腕周27 cm未満では小児用カフ、 太い腕(腕周34 cm以上)で成人用大型カフを使用する。
測定時の条件 静かで適当な室温の環境。
背もたれ付きの椅子に脚を組まずに座って数分の安静後。
会話をかわさない。
測定前に喫煙、飲酒、カフェインの摂取を行わない。
測定回数 1-2分の間隔をあけて少なくとも2回測定。この2回の測定値が大きく異なっている場合には追加測定を行う。
判定 安定した値を示した2回の平均値を血圧値とする。
高血圧の診断は少なくとも2回以上の異なる機会における血圧値に基づいて行う。

 いかがでしょうか?高血圧は、肥満の方に多いですが、肥満の方では腕周りが34 cmを超えることもしばしばです。届かない長さのカフをきつく巻かれて、痛い思いをしたことはありませんか?こうした場合、本当の血圧より高い測定値が出てしまいます。本当は高くないのに、薬をどんどん増やされる原因になりかねません。また、背もたれを使わない、安静にする時間を取らない、複数回の測定を行わないなど、診察室には血圧が高く出てしまうトラップが満載です。そのため、ガイドラインには、診察室血圧の「測定精度は軽視、ないしは無視されている」と述べられています。多くの場合、診察室血圧は信用できないのです!

アネロイド血圧計

 こちらも古くから医師や看護師によって使われていました。ばね式なのですが、このばねのメンテナンスが難しく、今では使われることも見かけることもほとんどなくなりました。歴史的遺物です。

自動電子血圧計(上腕巻き付け式)

 上腕に巻いて測定する一般的なタイプの血圧計です。よく目にする血圧計は、このタイプが一番多いのではないでしょうか。上手に繰り返し測定すると、精度よく値が測れるので、日本高血圧学会では、家庭での血圧測定には、この「上腕式自動血圧計」を使用するように推奨しています。

自動電子血圧計(上腕アームイン型)

 腕を筒型の部分に通すタイプの血圧計です。このタイプの血圧計は、病院や薬局の待合室に存在感を放って設置されていることが多いうえ、高価なので良いもののように錯覚し、つい購入される方も多いようです。決して悪いものではないのですが、気を付けないと測定の時に前かがみになって無理に腕を通すことになり、正確な値とならない場合が多いようです。本Blogでは、多くの専門医と認識を同じにし、アームイン型よりは、自然な姿勢で繰り返し測定ができる巻き付け式をお勧めします。


手首式血圧計

 手首に巻くタイプの血圧計です。簡単に巻くことが出来ることや、小さく軽いため持ち運びに便利という特徴があります。一方で、上腕式血圧計に比べると、振動や高さに測定値が影響されやすく正確性には劣ります。手首の骨の配置にも個人差があるため、万人に共通の機構にしずらいという問題もあります。常用というよりは、旅行や移動時の携帯用として使用するとよいかもしれません。最低限、手首を心臓の高さにして(右手首に巻いてひじを曲げ、左乳頭の付近に機器をあてるような姿勢で)測定することは守りましょう。

指式血圧計や時計型血圧計

 指式血圧計は一時期見られましたが、最近では店舗に並ばないようです。時計型で血圧が測れる唯一の機器は、オムロンヘルスケア社のHeartGuide(HCR-6900T)のみです。アメリカでも、日本でも、正式な医療機器の認証を受けています。運動量や睡眠時間まで測定でき、薬を飲んでいる人には服薬のリマインドもしてくれる優れものです。もちろん、時計として普段使いできます。



 この血圧計、普通の手首型血圧計と同じ、カフ式であるからこそ、医療機器として認められたとも考えられます。逆に言うと、カフのない機構で血圧が出る機器は、すべて現在の要件定義からは血圧計とは呼べず、出てくる数値も参考値ということになりますので注意しましょう。

血圧計では、脈拍数も測れる 不整脈を見れるものも

 血圧計は、血圧だけでなく「脈拍数」も測定することが出来ます。血圧の測定原理に関係する「コロトコフ音」や「オシロメトリック法における振動」は、どちらも心臓の拍動に合わせて現れるもので、心拍数は心臓の拍動数、脈拍数はそれを脈として触れた数なので、脈拍数も測定することが出来るのです。最近の家庭用血圧計のほとんどは、脈拍数も同時に結果として表示してくれますので、脈拍数を知りたい場合、自分で脈を押さえて数える必要はありません。

 脈拍数は体を動かすとすぐに上昇します。普段の正しい脈拍数を測定したい場合には、「5~10分間は安静にした後」「決まった時間に」「毎回同じ姿勢」で測定するようにしましょう。

 心拍数は、高血圧の合併症による死亡率にも関係すると考えられています。米国で半世紀以上前から行われている大規模な心臓病の疫学調査「フラミンガム研究」では、高血圧で治療を受けずに放置していた人の場合、心拍数が高いほど心血管病での死亡率が高かったと報告されています。血圧を測定したら、血圧と一緒に表示されている心拍数にも注目し、記録してみてはいかがでしょうか。また、最近の血圧計では、「不規則脈波」を検出するものがあります。不規則脈波のアラートが頻繁に出る場合、危険な不整脈出ないかどうか、医療機関を受診するのも一考です。また、オムロンヘルスケア社のHeartGuideを除いて、時計型では正確な血圧は測定できない、とお話しましたが、脈拍数や心電図となれば話は別です。例えば、最新型のApple Watch Series 6(アップル社)では、脳梗塞の発症と関連する危険な不整脈【心房細動】の検出が可能なソフトウエアを搭載しています。このソフトウェアは医療ソフトウェアの認証を受けています。脈拍数や心電図が気になる方には強い味方といえるでしょう。


コラム
 皆さんは、なぜ血圧測定に水銀を使っていたか分かりますか?それは、血圧の圧力が高すぎて、重いものを使わないと押さえつけることができないからです。水銀の比重は約13です。水に比べて13倍重いということですね。逆に、血液の比重は水と同じ約1です。100 mmHgは、水に直すと1300 mmH2O(ミリメートル水柱)となります。水で血圧を押さえつけようと思ったら、1.3メートルもの高さの血圧計が必要となります。もしもあなたが高血圧で、収縮期血圧が160 mmHgだったら、水柱に直すと2080 mmH2Oです。人間より高い大きさの血圧計が必要になりますね。そのぐらい、人間の血管は高い圧力に耐えて全身に血圧を送っているのです。できるだけ負担をかけないようにも、血圧は低めに保っておきたいのもですね。


正しい測定法①:正しくカフを装着しよう

ここがポイント!
★肘の内側にある動脈にカフのチューブが沿うように巻き付けよう
★カフの高さは肘のくぼみから1~2cm上、人指し指が1本入る程度の余裕をもって巻こう
★きつく巻くと高くでる、ゆるく巻くと低く出る
★腕の太い人には、長く幅の太い、太腕用カフを使う


 ここでは、日本高血圧学会が使用を推奨している、一般的な「上腕式血圧計」の正しい使い方について紹介していきます。
血圧を正しく測定するために重要なポイントは、何と言っても「正しい姿勢」と「カフが正しく巻かれていること」に尽きます。正しい姿勢を維持し、カフを上腕に正しく巻くことができれば、後は血圧計の電源を入れてスイッチを押すだけで、自動的に正しい血圧が測定出来てしまうので簡単です。

 カフを正しく巻くために、まずは腕の動脈を探してみましょう。肘の内側を指先で触れるとドクドクと脈打っている部分があります。そのドクドクしている部分が「動脈」です。その位置を覚えたら、下のイラストのようにカフのチューブを動脈に沿わせ、巻いていきます。巻く位置は、手のひらを上に向けて、肘のくぼみから1~2cm程度上です。巻く強さは、人差し指が1本入る程度の余裕を持たせましょう。





正しい測定法②:姿勢について

ここがポイント!
★血圧は、椅子に腰かけて、テーブルに血圧計を置いて正しい姿勢で測定しよう
★腕に巻いたカフが心臓と同じ高さになるような位置で測定しよう
★新聞やテレビを見ながら、5分ほど安静にしてからスタート
★測定中は腕に力を入れず、リラックスした状態でいよう


 正しくカフを巻くことができたら、次は姿勢の確認をしましょう。血圧は、正しい姿勢で測定しないと結果に影響してしまい、誤差の大きな数値になってしまう場合があるので、血圧測定をする際の姿勢を確認していきましょう。

 まず、正しい姿勢を作りやすいように、上のイラストのように椅子に腰かけて、テーブルに血圧計を置いて準備しましょう。椅子には背筋を伸ばして座り、上腕の素肌に巻いたカフが心臓と同じ高さになるようにしましょう。腕には力を入れずに、リラックスして測定をしてください。素肌を出すために上着の袖を無理やりたくし上げると、腕の血管を圧迫してしまい測定結果に影響しますので、袖がきつい場合には、袖を抜いて測定するようにしましょう。

 スイッチを押す前に、テレビや新聞を見ながら、5分ほど安静にしてからスイッチを押すと、落ち着いて良い数値が得られますよ。急がば回れ、高い血圧に焦らないように、正しく測定できるといいですね。

正しい測定法③:時間帯と測定回数

ここがポイント!
★家庭で正しく血圧を記録するためには、毎日朝と夜の決まった時間に上腕で測定しよう
★シフト勤務の方も起床後1時間までに測定してみよう
★1度に30秒以上の間隔をあけて2回測るのが基本
★連続測定は3回までにしよう
★測定値に一喜一憂せず、一定期間の傾向を見るのが大切


 血圧は、寝ている間は低く、昼間は高くなるというように、1日の中で変化しています。そのため、家庭での血圧測定は、毎日同じ時間に測定し、記録していくことが重要だとされています。

 日本高血圧学会は、家庭で正しく血圧を記録するために、「朝」と「夜」の決まった時間に上腕で測定すること、また血圧は1回に2度測定し、その平均値を取ることを推奨しています。そのため、朝と夜に1回ずつ測定するのではなく、朝に2回、夜に2回測定した結果と平均値を記録しておきましょう。同じ時間に複数回の血圧を測る際には、それぞれの間隔を30秒以上開けるようにしましょう。測定間隔が短いと、拡張期血圧が上昇する事と言われています。1度に測る血圧は、3回までにするといいでしょう。3回以上測るとむしろばらつきが大きくなるというデータがあります。1度の測定に一喜一憂せず、1週間や1か月などの一定期間の傾向で判断しましょう。

 さらに、血圧は食事などの行為によっても変化します。そのため朝は、排尿、食事、服薬をする前に、夜は就寝前に測定をしましょう。測定前に、たばこ、お酒、カフェインを含む飲み物を摂取することも血圧の値に影響するため避けてください。

 シフト勤務の方は、どうすると良いでしょうか?就寝時間が一定でない方は、交感神経が常に活発化しており、1日中、ほぼ同じ程度の血圧を示すNon-dipperと言われるタイプの高血圧を示す場合が多いと言われます。ですので、起床後1時間までに血圧を測る朝の条件は同じにして、後は必要に応じて測定し、測定の時間や就寝・起床の時間を記録できればなお良いでしょう。

テレモニタリングってなあに?

ここがポイント!
★血圧計で測定をすると、血圧の数値をスマートフォンに自動的に記録・保存してくれるアプリがある
★すべての数値が記録・統計されるので理想的
★測定した血圧を医療スタッフが見守ってくれるテレモニタリングサービスがある


 特に高血圧を治療中の人は、治療による効果が出ているかを確認するため、基本的に毎日血圧を測定し、記録を付けていく必要があります。毎回の診察時に、医師が血圧の測定記録を見て、値によってそれからの治療方針を変更する場合もあります。このような理由で、家庭で測定した血圧の記録を残すことは、とても重要です。

 最近では、うっかり記録をし忘れてしまうのを防ぐのに便利な、血圧計と連携した「血圧管理アプリ」が開発されています。血圧計連携型の血圧管理アプリは、血圧計にスマートフォンをかざしたり、アプリを立ち上げたりすることで血圧計で測定した結果を自動的にアプリ内に記録してくれます。記録された血圧はグラフ表示も出来るため、自分の血圧の変化を一目で把握出来る便利なアプリです。基本的に、測定した数値はすべて記録して傾向をみることが勧められます。紙の手帳だと、1日の欄に3回分の測定を書くのはキツイですが、デジタルで管理すれば何度測っても一瞬で記録して平均してくれます。
血圧の記録を付けるのが面倒な人や、測定結果を記録するのをうっかり忘れてしまいがちな人は、ぜひ血圧管理アプリを試してみてはいかがでしょうか。

 また、テレモニタリングという言葉を聞いたことはありますか?テレメディーズ社の【テレメディーズBP】のように、インターネットを経由して送られた血圧を、日々専門の医療スタッフが見守り、高すぎる場合にも低すぎる場合にも随時アドバイスをしたり、次回の診療までに血圧の傾向をレポートにまとめておいてくれる便利なサービスもあります。デジタルやオンラインの活用がこれからますます進んでいくようです。

おわりに

 普段の自分の血圧を知るために家で血圧測定をする場合には、毎日決まった時間に測定して記録を付けていくことがとても重要です。しかし、血圧測定をしていても間違った姿勢や間違ったカフの巻き方では、正確に測れません。ここで読んだ内容を振り返りながら、日々の血圧測定を行ってみてください。記録を付けるのが面倒な人や忘れてしまいがちな人は、血圧計と連携している便利な血圧管理スマホアプリもあります。血圧管理アプリやテレモニタリングサービスを利用することで、記録の負担を減らし血圧測定を継続出来るだけではなく、専門家から適切なアドバイスを受けることができるようにもなります。今日から正しく血圧を測定する習慣をつけていきましょう。

谷田部 淳一

この記事の監修

谷田部 淳一

医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。

医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。

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