完全治癒するかも?!二次性高血圧って何だろう
原因を特定できる高血圧もある
高血圧には自覚症状がほとんどないと解説してきましたが、これは「本態性高血圧」の場合です。特定の原因によって起こる「二次性高血圧」では、原因疾患に特徴的な症状を呈することもあります。ここでは、二次性高血圧について解説していきます。
★本態性高血圧は、原因が特定できない高血圧で全体の90%を占めている
★二次性高血圧は他の病気が原因で血圧が高くなっている状態をいう
★高血圧に加えて原因となる病気の症状が現れることも多い
★自覚症状のある高血圧の場合には、専門医による診断を受けよう
高血圧症は、大きく2種類に分けられる
高血圧には、原因を特定できない「本態性高血圧」と、他の病気や薬の副作用で起こる「二次性高血圧」があります。高血圧の90%は、本態性高血圧です。生活習慣の乱れが要因となる生活習慣病の一つとされており、今まで解説してきたように自覚症状がほとんどありません。
一方、二次性高血圧の場合は、他の病気が原因で血圧が高くなっているため、原因となる病気の症状が伴うこともしばしばです。ただし、二次性高血圧の原因として最も多い原発性アルドステロン症には、あまり特徴的な自覚症状はありません。
二次性高血圧にはそれぞれに特有の治療法がある
二次性高血圧では、他の病気が原因で血圧が高くなっているので、本態性高血圧のように生活習慣を改善するだけでは血圧は十分に下がりません。血圧を下げるためには、病態に合った薬を飲んだり、原因となる病気を取り除くために手術をするなど、ふさわしい治療法を選択する必要があります。稀ですが、中には悪性腫瘍に伴う高血圧もあるのです。
内分泌機能の異常による高血圧
原発性アルドステロン症
二次性高血圧の中で、最も多い疾患です。両側の腎臓の上にある小さな臓器を副腎といいます。原発性アルドステロンは、副腎から分泌される「アルドステロン」という血圧を上げるホルモンの過剰分泌によって発症します。ホルモンが関連している二次性高血圧の中では、最も多いとされています。
診断のためには、病院での血液検査が必要です。心配な方は、アルドステロン症ではありませんか?とかかりつけ医に質問してみてください。そうすると、レニン活性とアルドステロン濃度を測定してくれるはずです。私の経験からは、この血液検査だけでもほぼ9割方診断を付けることが出来ます。この検査で、アルドステロンの分泌が極めて多いと考えられる場合、内分泌疾患に詳しい総合病院または大学病院を紹介してもらいましょう。もう少し詳しい検査を受けることで、あなたのアルドステロン症が、両側性の過形成によるものなのか、片側性の副腎腫瘍によるものなのかを判断することが出来ます。最終的に、更に内9割の人では、手術では治療できない、両側性過形成であることが分かります。この場合は、通常通り薬物療法を行うことになりますが、アルドステロンの作用を遮断する、アルドステロン受容体拮抗薬という薬を使うことで、治療の成果がより良くなります。一方、片側性の副腎腫瘍が見つかった場合、最良の治療は手術によって腫瘍を摘出することと考えられています。この場合、高血圧が完全に治癒し、服薬を要しないほど回復する方も数多くおられます。
高血圧症の患者さん1000人中100人程度がアルドステロン過剰の影響を受けていると考えられ、アルドステロン症100人のうち数人程度が副腎腫瘍を原因とする片側性過剰分泌であるようです。すなわち、高血圧1000例中数例は、手術により治癒する原発性アルドステロン症であると推察されます。
クッシング症候群またはクッシング病
副腎から「コルチゾール」という血圧を上げるホルモンが、過剰に分泌されることで発症します。コルチゾールは、糖質ステロイドホルモンの1種類であり、高血圧以外にも、顔やお腹に脂肪が蓄積し、ムーンフェイスや中心性肥満などが現れたり、糖尿病を発症したりします。
副腎に命令を出す下垂体のホルモン(ACTH)が過剰となって発症する場合をクッシング病と呼び、アルドステロン症と同様、副腎自体に腫瘍ができ、アルドステロンではなくコルチゾールが過剰に分泌されるようになった場合を副腎性クッシング症候群と言います。また、アトピー性皮膚炎やぜんそくなど、自己免疫を抑制するためにステロイド薬を使わざる負えみない場合に生じる場合は、薬剤性クッシング症候群と呼びます。いずれの場合も、最終的にはコルチゾール過剰によって起こるため、症状はすべて同じです。
クッシング病も、副腎性クッシング症候群も、可能な場合は腫瘍の摘出手術を行います。腫瘍を取りきることが出来れば、高血圧を含め、様々な症状は治癒または改善します。
褐色細胞腫
副腎の内側にある副腎髄質や傍神経節から発生する腫瘍をいいます。比較的稀な病気ですが、内分泌専門科においては年に数例程度経験します。この腫瘍は、血圧をあげる作用のある「カテコラミン」というホルモンを産生するため、高血圧になります。カテコラミンは、心臓の働きや発汗の調節などを行っています。多くの場合、カテコラミンが上昇すると、動悸や発汗、顔の紅潮など、特有の症状が発作的に起こります。
ほとんどは良性の腫瘍であり、手術で摘出することで治癒します。しかし、10%程度はは骨や他の臓器に転移する悪性腫瘍のことがあり、この場合は治療に難渋します。
甲状腺機能亢進症
女性に多い、有名な疾患です。首の前方にあって、代謝をつかさどるホルモンを産生する臓器が甲状腺です。この甲状腺を持続的に刺激する「自己抗体」が原因で発症します。症状としては、頻脈、発汗、手指の震え、疲れやすさ、体重減少などが良くある自覚症状ですが、高血圧も見られます。エネルギー代謝が活発になるので、食べても食べても太らないということもあります。一部、褐色細胞腫の症状と似ていますが、褐色細胞腫の症状は発作性であることが多く、甲状腺機能亢進症の症状は持続的です。甲状腺が持続的に刺激されるため、甲状腺が肥大し、首が太く、前に張り出したように見えることもありますし、バセドウ眼症と言って、眼球が前方に突出する特徴的な顔つきになる人もいます。
治療は、薬物療法になりますが、薬が副作用で使えない場合や根治を狙う場合には放射線療法を選択することもしばしばです。極端な難治例では、手術を行い、甲状腺を摘出しならないケースも少ないですが存在します。
甲状腺機能低下症
甲状腺の機能が、逆に低下してしまう場合にも高血圧をきたすことがあります。原因はやはり自己抗体ですが、甲状腺機能低下症(橋本病)の場合には慢性炎症が直接の原因です。症状は、疲れやすさ、むくみ、体重の増加、徐脈、寒さに弱くなるなど、亢進症とは逆の訴えが多くなります。高齢者では、心身や精神活動の低下から、認知症と間違われることもあるため注意が必要です。
特定の治療法はなく、甲状腺機能が低下した場合には、甲状腺ホルモンの補充療法を行います。適切な治療を行わず、極端に甲状腺機能が低下してしまうと生命にかかわることもあるため、診断されたら医師の説明をよく聞き、適切に治療を受けることが必要です。
先端巨大症
脳下垂体から成長ホルモン(GH)が過剰に分泌されることにより引き起こされるのが先端巨大症です。原因は、下垂体の良性腫瘍です。子供の場合、GHは骨を伸ばすために必要ですが、大人になると骨は伸びなくなるので、その代わりに軟部組織という肉の部分が肥大してきます。眉の骨が前に出る、顎が前に出るなどの特徴的な顔つき、手足が大きくなって、昔の指輪が入らなくなる、靴のサイズが大きくなるなど容貌に変化が現れます。高血圧もおきますし、放置した期間が長いと、糖尿病や心不全など深刻な合併症をきたしてから受診される方も少なからずみられます。何年もかけて緩やかに見た目が変わってきますので、毎日会うような家族や親しい人には気づかれないことも多いです。
検査で確定診断となった場合の治療法は第一に下垂体腫瘍の摘出術です。手術経験の多い専門医療機関に相談すると良いでしょう。
腎機能が原因となる高血圧
腎血管性高血圧
腎臓からも、血圧を調節するホルモンが産生されています。腎臓は、老廃物を除去するために1日100リットルもの血圧が流れており、血流が少なくなると十分に機能することが出来なくなります。そのため、レニンというホルモンを産生することによって血流を保とうとしているのです。
腎臓が原因となる高血圧で時々見られるのが腎血管性高血圧です。これは、腎臓への血液の通り道となる腎動脈に何らかの原因で狭窄が起き、腎臓に到達する血流が足りなくなってしまうことが原因です。そのためレニンの分泌を増やし、体液量を増やして血圧を上げることで血流を維持する仕組みが働きすぎてしまうことで生じます。10代から30代ごろまでに見つかる場合は繊維性過形成(FMD)という現象、中年以降高齢者に見つかる場合は動脈硬化による場合が多いです。
診断のためには、造影CT検査が役に立ちます。治療には、バルーンカテーテルという機器を使い、血管内から風船で血管を膨らませて広げることを行います。特に若年者に起こるFMDの場合、治療が奏効すると高血圧が治癒します。ただし、高齢者と違い、特に学生期には血圧を測定する機会がほとんどなく、見つからずに青年期を迎えてしまうことも多いです。家庭で血圧を測っているご両親、祖父母などがいる場合、興味を持った子供が血圧を測ってみたことから、この病気の発見につながったケースもあります。
腎実質性高血圧
最近増加しているのが腎実質性高血圧です。長年高血圧を放置した場合などに、腎臓の濾過機能が低下してしまう場合があります。濾過機能を維持するためには、腎臓に圧力を多くかけるしかなくなるために全身の血圧が上昇します。そうすると、腎臓に負担がかかってますます腎機能は低下し、血圧は上昇するという悪循環が原因です。
腎実質性高血圧による透析導入も増えています。対処法は、服薬による適切な血圧管理です。最初のうちは高血圧専門医に、透析数歩手前まで至ってしまった場合には、腎臓専門医に相談すると良いでしょう。
薬剤性の高血圧
二次性高血圧の原因は、病気だけではありません。薬の作用によって、高血圧が誘発される場合もあります。有名なのは、甘草(カンゾウ)を含む漢方薬の服薬です。甘草には、アルドステロンの分解を抑制する作用があります。このことにより、アルドステロンの作用が過剰になり、前に説明した原発性アルドステロン症と同じような症状、血圧上昇がみられるようになります。本当のアルドステロン症ではなく、薬剤性のアルドステロン症であることから、偽性アルドステロン症とも呼ばれます。漢方薬を長期にわたって飲むときには、甘草を含んでいるかどうかに注意が必要です。
薬の飲み合わせによって、降圧薬の働きが弱まったり、強まったりすることもあります。降圧薬を説明するコラムで紹介します。これまで、血圧コントロールができていたにも関わらず、薬の服用をきっかけにコントロールができなくなった場合にも、薬剤誘発性高血圧の疑いがあります。特に、免疫抑制剤や抗がん剤では血圧が上昇する薬剤が少なからずみられるので、注意が必要です。
症状のある高血圧の場合は専門医を受診しよう
二次性高血圧の場合、生活習慣を改善するだけでは血圧は下がりません。原因となっている病気をみつけて、治療する必要があります。高血圧に加えて、何らかの自覚症状が現れている場合には、二次性高血圧の可能性がありますが、原因によっては判断が難しい場合もありますので、高血圧の専門医に相談する事をおすすめします。
この記事の監修
谷田部 淳一
医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。
医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。