高血圧ケアに役立つ運動法を一挙解説!
そもそも運動不足は害である
★「ややきつい」程度の有酸素運動をほぼ毎日30分以上行うことが効果的
★10分以上の運動であれば、2,3回に分けて行い、1日合計30分以上でもよい
★筋力トレーニングは瞬発的に血圧を上昇させるため、高血圧の人は医師に相談してから行うようにする
運動不足で高血圧の合併症が増加する
WHOは、運動不足を世界の死亡に対する第4位の危険因子として位置付けています。さらに、活動量の低下は脳心血管病の発症を増やします。
また、運動不足は「肥満」の原因にもなり、肥満は当然、高血圧の原因となります。したがって、高血圧患者はもちろん、健康維持のために必要な生活習慣の修正には、適切な運動の実施が欠かせません。
高血圧改善のために、今日から体を動かしてみましょう。
お勧めの運動メニュー
それでは 、具体的にどのような運動を行うことが血圧を下げるのに効果的とされているのでしょうか。
運動をすると、体を動かすことにより、一時的に血圧は上がります。しかし、適度な有酸素運動を続けると、体は筋肉にたくさんの酸素や栄養を運ぶために、血管を拡張させたり、交感神経の緊張を解いたりし、それらの影響で、血圧は下がります。有酸素運動の中でも、歩行、水泳、ジョギング、自転車など、手足の大きな筋肉が収縮・弛緩を繰り返す全身運動が特に効果的であるとされています。
厚生労働省は高血圧予防/改善のために「ウォーキング(速歩)・軽いジョギング・水中運動・自転車・その他レクリエーションスポーツなどの有酸素運動を1週間にほぼ毎日、30分以上行う」ように勧めています。10分以上の運動であれば数回に分け、1日合計30分以上とすることも可能です。
運動強度は、「ややきつい」と感じる程度がちょうど良いとされています。無理な運動は、かえって血圧を上昇させてしまう場合がある上、長続きさせるには不向きです。無理をせずに自分に合った運動を行いましょう。
運動の前後にはストレッチをしよう
筋肉の柔軟性を高めるストレッチや柔軟運動には、けがの予防効果や疲労回復効果があります。このように、筋肉や関節の柔軟性を高めることを目的にした運動を「ストレッチング」といいます。有酸素運動の前のウォーミングアップと運動後のクーリングダウンとして、ぜひストレッチングを取り入れるようにしましょう。
ストレッチングを行う際に注意すべきポイントが5つあります。
1. ストレッチ時間は最低20秒キープする
2. 伸ばす筋肉や部位を意識しながら行う
3. 痛くなく気持ち良い程度に伸ばす
4. 呼吸を止めないように意識する
5. 目的に応じて伸ばす部位を選ぶ
注意するポイントが分かったところで、それでは上半身、下半身、全身と、部位別に、けがをしやすい部分を中心とした簡単なストレッチ方法をご紹介していきます。
上半身のストレッチ
下半身のストレッチ
上半身のストレッチ
他にもストレッチ法はいろいろあります。これからもたくさん紹介していきますので、ぜひ自分に合った方法で運動の前後に行うようにしてみましょう。
有酸素運動の基本は「ウォーキング」〜効果的なウォーキング法
正しいウォーキング法を知ろう
まずはウォーキングの基本です。歩き出す際には、つま先で地面を蹴るイメージで前進します。そして歩くときは必ずかかとから着地して、足の裏全体で地面をとらえましょう。視線は、軽くあごを引いて少し遠くをみるようにしましょう。肩の力を抜いて、背筋を伸ばし、腕を大きく振るとより運動効果が上がります。
自分に合ったウォーキングシューズを選ぼう
ウォーキングは、靴がとても重要です。必ず自分の足に合ったウォーキングシューズを選ぶようにしましょう。選ぶ際には、「つま先に指が動かせる程度のゆとりがあること」「靴がしっかり足にフィットしていること」「足の甲の部分まで覆っているデザインであること」の3点を満たしている靴を選ぶようにしましょう。
靴底は「衝撃吸収性があり、指の付け根の部分で靴が曲げられるもの」を選ぶと、つま先でしっかり地面を蹴ることが出来て歩きやすいでしょう。
最近では、ウォーキング専用のシューズも多く販売されています。高血圧予防のため、通勤の際に革靴からウォーキングシューズにはき換えて、少し遠回りをして歩いてみてはいかがでしょうか。参考までに、厚生労働省による国民健康づくり運動の「健康日本21」では、日常生活における1日の歩数の目標値を「男性9,200歩以上、女性8,300歩以上」としています。 車移動やデスクワークがメインの人は、想像しているほど歩いていないかも知れません。1度歩数計を使い、自分が1日にどの程度歩いているのか調べてみて、毎日の歩数も意識していきましょ
高血圧の人はやらない方が良い運動もある
高血圧の人が運動する場合、激しい運動は要注意です。
低・中強度の運動の場合、血圧の上昇はわずかですが、高強度の運動は血圧が急激に上昇します。特に、腕立て伏せやけん垂などの筋力トレーニング系の運動は、瞬発的に力を入れるので血圧が急に上がりやすい運動です。高血圧の人でこのような運動を行いたい場合には、必ず医師に相談してから行うようにしましょう。
妊婦欄はやらない方がいい運動
妊婦さんも、妊娠高血圧症候群の予防などのために体を動かすのはとても大切だといわれていますが、せっかく運動をしても自分の体や赤ちゃんに危険が及んでしまわない様に、無理な運動や激しい運動は控えて、十分な安全管理の下で運動を行いましょう。
妊娠高血圧症候群について詳しくは「【妊娠高血圧症候群について】定義・治療法・帝王切開の必要性から予防法・豆知識まで妊婦さんが知っておきたい情報を解説」をご参照ください。
日本臨床スポーツ医学会は、妊娠中に安全にスポーツを行って良い基準を、以下のようにしています。
■現在の妊娠が正常で、過去の妊娠で早産や何度も流産をした経験がないこと
■単胎妊娠(双子や三つ子などではない)で、胎児の発育に異常がないこと
■妊娠が分かってからスポーツを始める場合は、原則として妊娠12週以降で妊娠経過に異常がないこと
日本臨床スポーツ医学会の産婦人科部会は、妊婦さんの運動について、「有酸素運動、かつ全身運動で楽しく長続きするもの」を推奨しています。例えば「ウォーキング」「水泳」「固定自転車」「エアロビックダンス」などです。
妊娠前から行っているスポーツに関しては、基本的には中止する必要はありません。しかし、妊娠の状況によって医師と相談し、運動強度を調整する場合があります。
「ホッケー」「ボクシング」「フットボール」「サッカー」などは、相手と接触して腹部を打ったりする危険性が高いため避けましょう。「体操競技」「乗馬」「スキー」「スケート」「スキューバダイビング」などは、転びやすくけがをしやすいので、妊婦さんには危険なスポーツです。また、妊娠16週以降では、仰向けの姿勢になる運動は行わないようにしましょう。
運動療法は継続することが大切
★血圧は運動中に上昇するが、直後から低下する この効果は1日しか持続しない
★1-2か月ほど定期的に運動療法を実施して、目標血圧まで下がらないときには服薬治療を考える
数か月の経過で血圧が十分に低下しない場合には服薬を
食事や運動で手っ取り早く血圧が下がる方法があれば、ぜひ行いたいものですが、実際に即効性のある方法はあるのでしょうか。血圧は運動中に上昇しますが、終了直後から4-5 mmHg低下します。しかしこの効果は22時間ほどしか持続しない効果なので、運動は毎日実施することが肝要です。運動は、比較的即効性のある降圧療法といえますが、続けなければ意味がありません。
高血圧は、生活習慣病の1つです。そのため、高血圧の治療の基本は「生活習慣の改善」です。生活習慣は、生まれてから毎日の生活の中で、長年にわたり染み付いているものです。そう簡単に修正することは出来ません。高血圧を改善するためには、バランスの取れた食生活、適度な有酸素運動を毎日続けることこそが大切なのです。
また、高血圧学会では、食事や運動など生活習慣改善の効果を、1か月おきに振り返るように勧めています。数か月の経過で目標血圧まで低下しない場合には、お薬の選択肢も積極的に検討すると良いでしょう。
さいごに
”Exercise is medicine.”とは、運動は薬である、という意味です。高血圧治療として運動法を紹介しましたが、そもそも、身体的にどこも悪くなくても運動することは良いことです。ストレス解消や家族サービスの手段にもなりえます。どんどん、興味のある運動に取り組んでいきましょう。
これからも、個別の運動法を記事やビデオで紹介していきます。お楽しみに。
この記事の監修
谷田部 淳一
医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。
医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。