高血圧専門医に聞く① 今日からできる対策って何ですか?

 高血圧を発症している人は、約4,000万人にも及ぶと推計されています。生活習慣病の一つであり、いつ誰が発症してもおかしくない病気なのです。血圧が高い状態が続くと、命に関わる合併症を発症するリスクもあるのです。そこで、知っていそうで意外に知らない高血圧の本当の怖さから今日から出来る対策までを、高血圧専門医である谷田部淳一先生にインタビューしました。

どこからが高血圧?ー自分で測る血圧と、病院で測る血圧は値が異なるか?ー

ー自宅で測る血圧と、病院で測る血圧は値が異なることもあると思います。どちらを重視していますか?

 現在は、検診や診察室で測定した血圧ではなく、「家庭血圧」が最も重視されており、このことは国内外の高血圧ガイドラインにもしっかり記載されています。しかし、家庭で毎日血圧を測定することは、実際は難しいことだと思います。

 これまでは、「コンプライアンス」といって、医療者側からの「血圧を測れ」という指導を遵守できるかが重要だと考えられていました。しかし、最近では「アドヒアランス」や「コンコーダンス」といって、患者自身が積極的に治療方針の決定に参加し、医療者と患者がお互いにつかず離れずの状況を作れるかどうかが重要であると考えられています。

 そのため、血圧測定を指導する際には、「毎日、血圧を測定して下さい」というと半ば強制的になってしまうので、「あなたの測れる範囲で測ってください」といった指導が勧められています。しかし、結局そのような指導だと医療機関から足が遠のいてしまうもあるので、難しいところでもありますが。

ーそうなんですね。自分で家で測る血圧より、医師や看護師に測ってもらった方が正確だと思っている人もまだまだ多そうですね。

 そうですね。例えば、医者や看護師が使っていた水銀血圧計ってありますよね?あれは、測る人の技術によって差が出ることが多いんです。やはり、人の目で数値を見ていますからね。実は、医療者でも知らない方が多いのですが、水銀柱を落とすスピードや測定時の姿勢にも決まりがあるのです。実際、忙しい臨床現場でそれらの決まりを守っていくのは難しいんですよね。それも、診察室血圧が当てにならない理由の一つなんです。結局、日常生活の中で繰り返し測定できる家庭血圧が重要になるんですよね。

ーただ、「毎日血圧を測る」ってやっぱり大変そうですね。

 はい、ただそれは間違いであって、週に3回でも良いので家庭で血圧を測定した方が、診察室血圧よりも正確な数値が出ると思います。

 実際に岩手県の大迫町(現:花巻市)では、30年間に渡り住民の血圧を測定するコホート研究が行われており、「朝と晩、週に3日程度となるように血圧を測定する事で、心血管病になるリスクを予測することが可能だ」という結果が出ています。

 毎日、朝晩に測定するに越したことはありませんが、過去の研究からも週3日程度血圧を測定していれば、心血管病になるリスクをある程度予測する事が出来るのです。また、薬が変わって落ち着くまでは、週5回以上の測定をお勧めしています。

ー自宅で測った血圧が、「いくつなら正常で、いくつなら高血圧」なんでしょうか。

 高血圧は、家庭血圧であれば135/85 mmHg以上は高血圧ですという基準値が設けられています。しかし、私はそういった域値が定められていることが誤解を与えている側面もあると思うんですよね。つまり、最高血圧が130 mmHgであっても、130 mmHgなりの心血管病のリスクがあることを忘れてはいけないと思います。最高血圧が120 mmHg未満の場合、心血管病になりにくい正常血圧であるとされていますが、そこからさらに正常高値血圧、高値血圧と区切られています。2019年に改定された新しい高血圧治療ガイドライン(JSH2019)から、至適血圧という表現が除かれ、あくまで正常血圧は120 mmHg未満であり、130 mmHg以上は”高値”という表現がつくようになっています。140 mmHg未満であっても決して問題がないわけではないということをわかっていただくためです。



 血圧は値によって、それぞれにリスクがあることを忘れてはいけないのです。高血圧の基準に達していないからといって、心血管病のリスクが無いというわけではないということです。段階が別れているのは、心血管病のリスクを分かりやすく表現したいというだけです。

 あくまでも血圧は連続値であり、120 mmHgから高くなるにつれて、心血管病、最近では認知症のリスクも連続的に高くなることを理解する必要があるのです。



 なので、域値を設けている事自体が、無意味であるとも言えますね。個人レベルでは、高血圧と診断されようがされまいが、自分の血圧を出来るだけ低く保つために、生活習慣の改善を続けて行く事が重要であると思います。

「死」につながる可能性がある高血圧、その怖さとは?

ー高血圧の診療ガイドラインによると、死亡原因の第一位はタバコで、第二位が高血圧という結果になっています。しかし、タバコに比べて、高血圧が命に関わるというイメージがあまり浸透していないように感じます。*

 死ぬか生きるかで考えれば一番危険なのは「タバコ」ですが、健康寿命で考えれば一番危険なのは「高血圧」です。ですから、元気で長生きするためには「高血圧」に注意が必要なのです。この事実を多くの方に知ってもらえると良いですね。とはいえ、実は日本における血圧に対する認知度は、実は世界的に見ても高いと考えています。日本は、1家庭に1つ血圧計があるほど普及していますからね。世界から見てもここまで血圧計が普及している国はないのではないでしょうか。

ー多くの人は、検診で引っかかり高血圧だと診断される方が多いと思うのですが、実際そこから生活習慣の改善を行なって血圧が改善する人ってどの程度いますか?

 感覚としては10人に1人いる程度ですかね。血圧の低下に一番効果があるのって実は「減量」なんです。例えば、肥満気味の人が5 Kg落とした場合には、血圧にかなり効果があります。「減塩」は、1日に塩分を10 g〜11 gとっている人が「6g」まで減らす事が出来れば、4~5mmHg程度下がるかなというくらいで、効果を如実に実感できることは少ないのではないでしょうか。
 
 しかし、日常生活全般を改善出来れば10 mmHg程度なら下げられる可能性はありますね。高血圧の基準ギリギリの方であれば、日常生活の改善のみで薬をのまなくてもすむ可能性はあります。診療ガイドラインだと、日常生活改善について1か月おきに振り返りを行って十分な効果が現れなければ、薬物治療を開始しましょうと記載してありますが、血圧には季節変動もありますし、リスクの少ない軽症高血圧であれば、患者さんが納得するまで丁寧な生活指導と家庭血圧測定の継続でもう少し長期間、降圧にチャレンジしてみても良いと思っています。実際、前のガイドラインでは、3か月は見てみましょうとなっていました。もちろん、160 mmHgを超えるような最重症の高血圧では、即座に薬物治療を開始するべきです。

血圧を下げる薬は、一生飲み続けなければならないか?

ー高血圧は自覚症状がありませんが、やはり怖い病気なんですね。しかし、やはり自分が病気である自覚がないので、薬を飲むことに抵抗感を抱く方が多いのではないでしょうか。

 それはその通りです。高血圧や糖尿病などの生活習慣病では、治療前と治療後を比べた際に、治療後の方がQOL(※)が下がったというデータがあるんです。なぜなら、高血圧のように自覚症状が少ない場合には、自分が病気であると認識していない方も多いので、治療を受けると「自分は病気になってしまったんだ」という精神的なQOLの低下が起きる場合があるのです。

 これは動物実験レベルの話になるのですが、降圧薬には何年か治療を続けたあとに治療を中断しても、治療後の血圧があまり高くならないまま経過する「レガシーエフェクト(遺産効果)」という特徴があると考えられています。
実際に、そういった患者さんも一定数いると言われています。降圧薬を飲み始めたら、必ずしも一生飲み続けなくてはならない訳ではない事を知ってもらいたいですね。医師と患者、お互いの協力で、薬を飲まなくても状態に持っていくことも出来るのです。

 加えて、血圧は季節変動もあるので、血圧を一年間しっかりと測定しグラフ化する事で、ここの期間だけは薬で補助するといった介入も出来ます。実際に、3 ~4年くらいかけて、内服が無くなったというケースもあります。
*QOLは、「「Quality of Life」の略であり、日本語では「生活の質」「人生の質」など訳される。人間が自分らしい生活を送り、身体面だけではなく、精神面、社会面も含めて、満足感のある生活を送れているのかといった意味合いがある)

ー飲み続けなくてはならないと不安な方もいると思うので、それを聞くと安心する方も多いかもしれませんね。降圧薬がききすぎて、血圧が下がり、めまいやふらつきが生じる患者さんもいますか?

 私の患者さんにそういった方は少ないですね。最も大切なことは「そういった副作用が起きる可能性があるということを、事前に医師や薬剤師から患者さんに伝えておくこと」だと思います。事前に伝えておく事で、副作用が現れても患者さんは話に聞いていた通りだなと思い、信頼感も増すのではないでしょうか。仮にそういった副作用が現れたとしても、薬の量や種類を変更する事で改善出来ますからね。

 それよりも、副作用が起きるかもしれないという情報を伝えずに、そういった事態が起きてしまった場合の方が、降圧薬に対する恐怖心が生まれてしまい、治療を中断してしまう結果に繋がりやすいと思います。

 また、白衣性高血圧や白衣効果に注意が必要です。診察室では緊張して高いものの、普段はそうでもない。診察室血圧だけ見て薬を出されてしまうと、普段の血圧が下がりすぎてしまいます。だから家庭血圧をきちんと評価することは、不要な医療を受けないように自分の身を守るという意味でも重要です。

 次回、高血圧専門医に聞く②に続きます(2020年11月配信予定)

谷田部 淳一

この記事の監修

谷田部 淳一

医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。

医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。

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