高血圧ケアは何と言っても減塩から
「敵に塩を送る」は殲滅作戦
★塩分を取り過ぎると、体内の塩分濃度を薄めるために血液量が増えて、血圧が上がる
偏った食事が健康を損なうのは想像に難くありませんが、高血圧ケアのためには「塩分の取り過ぎ」に注意が必要です。多くの食品には、想像しているよりも多くの塩分が含まれています。ここでは、塩分と高血圧の関係性について見ていきましょう。
日本人は塩分の取りすぎに注意
あなたは自分が一日にどのくらいの塩分を取っているか知っていますか。
厚生労働省が実施した「平成26年国民健康・栄養調査」によると、日本人の1日あたりの平均塩分摂取量は、「男性10.8 g、女性9.2 g」という結果でした。平均塩分摂取量は、近年減少傾向ではありますが、健康に長生きをするためにはまだまだ多過ぎるため、国を挙げての減塩活動が必要です。
1日の塩分摂取 お勧めの量は?
厚生労働省が目標値として掲げている、日本人の1日の塩分摂取量は、「男性8.0g未満 女性7.0g未満」です。先ほどの平均塩分摂取量とこの数字を比較すると、普段私たちは塩分を取り過ぎているということが一目瞭然ですね。
さらに「高血圧治療を受けている人」の場合は、塩分摂取量を1日6 g未満にするよう、日本高血圧が求めています。
実は、欧米のいくつかの国では、高血圧治療を受けていない人も塩分は1日6 g未満にするように勧めています。これまでに世界各国で行われてきた研究により、塩分の摂取量を制限することで、高血圧予防や改善につながることが明らかだからです。これらの研究結果を受け、世界保健機関(WHO)では、成人の1日における塩分摂取量の国際的な目標値を「5 g」としています。国際的な目標値は、日本での目標値よりずっと低いのです。しかし、甘く設定されている日本の目標値ですら、私たちには達成出来ていないのです。
塩分を取りすぎるとなぜ高血圧になるのか
血液中のナトリウム(Na)の濃度は、一連の仕組みにより常に一定に保たれています。塩分(NaCl)を取り過ぎると体内のナトリウム濃度が高くなります。すると脳から、「水分をたくさん取って塩分を薄め、ナトリウム濃度を一定に保て」と指令が出ます。しょっぱいものを食べたときに、のどが乾くのはこのためです。
さらに、腎臓でも塩分を薄めるための働きが促進されます。促進されるのは「水の再吸収」という働きです。水の再吸収により、体外に出る水分量が抑えられ、体内を循環する血液量が増えるので、結果的に塩分濃度が下がります。塩分濃度が下がる一方で、同じ太さの血管に多くの血液が流れるようになるので、血管の壁に掛かる圧力、すなわち「血圧」は高くなります。
塩分の取りすぎにはカリウムが効果的
★カリウムはくだものや野菜に多く含まれる
★腎機能が低下している人は、高カリウム血症になりやすいためカリウムの積極的摂取には注意が必要
塩分を取りすぎたときは野菜を食べよう
カリウムはナトリウムを体外へ出しやすくし、血圧が上がるのを抑制する効果を持つミネラルです。日本高血圧学会は、血圧が高い人に対し、減塩に加えて積極的にカリウムを取るように勧めています。
世界保健機構(WHO)が、2012年に成人と子どものカリウム摂取量について示したガイドラインでは、1日にカリウムを3,510mg以上摂取するように勧められています。日本人の平均的な摂取量は2,800 mg程度です。腎機能が正常な人は、カリウムを多く取り過ぎたとしても、尿の中に出されてしまうので、摂取上限量は設けられていません。高血圧の人は、腎臓が正常であれば、健康な人の倍くらい取るように心がけましょう。
カリウムは、野菜、果物、海藻類、豆類などに多く含まれています。特に、カリウムが多く含まれている食品としては、「ほうれん草」「アボカド」「バナナ」などが挙げられます。これらの食材を積極的に取るように意識しつつ、野菜なら厚生労働省の勧める1日350 g、果物についは先ほどお話しした「食事バランスガイド」に基づいてリンゴ程度なら1個、ミカン程度なら2個(約200 g)を摂取するようにメニューを考え、バランスの取れた食生活を目指しましょう。
腎機能が低下している人は医師に相談を
腎機能が低下していると、塩分(ナトリウム)だけではなく「カリウム」の体外への排出機能も低下します。そのため、腎機能が低下している人は、血圧が高いからといって「カリウム」を多く取り過ぎてしまうと、血液中にカリウムが増えて「高カリウム血症」になってしまいます。高カリウム血症は危険な不整脈の原因になります。
腎機能が低下している人は、塩分制限に加えて、カリウム制限も必要です。該当する人は、カリウムや塩分の摂取について必ず医師に相談しましょう。
美味しく減塩するためのヒント
★パンやハム、練り物など、加工品には塩分が多く含まれる
★レモンや酢、香辛料など、塩味以外の味や風味を楽しもう
★減塩タイプの調味料や食品がお勧め
★調味料は”かける”のではなく”つけて”食べよう
★麺類の汁は残すようにしよう
調味料は計測して料理に入れよう
目分量で料理の味付けをしてしまうと、どうしても調味料を入れ過ぎて、塩分が多くなってしまいがちです。そこで、ぜひ調味料は量を計測する習慣をつけてみてください。基本的な計量スプーンの大きさは、「大さじ1杯…15mL」「小さじ1杯…5mL」「ミニスプーン1杯…1mL」です。計量スプーンを持っている人は、さっそく容量を確認してみましょう。また、調味料が粉末の場合は、「すり切り用のへら」を使用すれば、盛り過ぎを防げます。
調味料の量を計測することは、普段からどの程度の塩分を使っているのか意識することにつながります。この意識こそが、減塩の第一歩です。
加工品や漬物は、塩分量が多いため要注意
塩分量の多い加工品や漬物などの食材は、量を減らすことで減塩していきましょう。例えば、同じ梅干しであっても種類や商品によって大きさが異なります。当然大きい梅干しほど、塩分量も多くなります。いつも食べている梅干しより、サイズの小さなものに変更することで簡単に塩分量を減らすことが出来ます。
食パン6枚切り1枚には、0.8 gの食塩が含まれます。2枚食べたら1.6 gとなり、ほぼ1食分の食塩許容量になってしまいます。ソーセージやハムなどの加工肉は、もともと塩味が強いので、調味料を付ける場合には出来るだけ少なくしましょう。
また、浅漬けや野沢菜などの漬物は、一度水に浸して「塩抜き」をすることで減塩することが出来ます。
食べ方を少し変えて、減塩しよう
刺身や天ぷらなどを食べるときに、しょうゆなどの調味料をたっぷりと付けていませんか?たっぷりと付ける習慣がある人は、端の方に少なめに付けるように心がけるだけで、摂取する塩分の量を減らすことが出来ます。
同様に、冷たいそばやそうめんなどは麺全体を付け汁に浸さずに、先だけ付けるようにしてみましょう。また、煮物などは、スプーンよりもお箸で食べた方が、食材に付いているタレ(調味料)が皿に多く残るので減塩につながります。
香りや酸味の強い食材や調味料を使うのも有効です。レモンや酢、香辛料など、塩味以外の味付け、三つ葉やパクチーといった香味野菜などを積極的に取り入れると良いでしょう。
このように、食べ方を少し工夫するだけで減塩することが出来るのです。
さいごに
武田信玄が、塩の供給を絶たれて困っているときに、宿敵の上杉謙信が見かねて塩を送ったという故事に基づき、「敵に塩を送る」という言葉は、「苦境に立たされている姿を見たら、例え敵であっても助けてあげる」という意味で用いられるようです。確かに、冷蔵庫のない時代には食品の保存に塩は不可欠であったし、戦で多く出血した場合は点滴代わりに塩水を飲めば対応できたかもしれません。しかし現代では、そのような困りごとはなく、今「敵に塩を送ったら」それは攻撃以外の何物でもありません。あなたが食塩を取りすぎることは、あなた自身の健康に害をなすことになるのです。
楽しく減塩する方法も、いろいろ考案されています。また別の記事で紹介していきたいと思います。塩と縁を切る「塩」切りライフに、今日から挑戦してみましょう!
この記事の監修
谷田部 淳一
医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。
医師・医学博士・高血圧専門医・内分泌代謝科専門医・指導医 一般社団法人テレメディーズ代表理事 高血圧診療のデジタル化を推進。ところが前のめりになりすぎて、マルシェで果物を売っていたりする。高血圧の総合商社になれたらいいなと思う今日この頃。